研究課題/領域番号 |
15K04566
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
片岡 美華 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (60452926)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 自己権利擁護 / 発達的支援 / 発達障害 / 自己理解 / 提唱力 / 意思表明 / 教育的プログラム |
研究実績の概要 |
本研究は、発達段階による変容とセルフアドボカシースキル(SAS)の活用経験がSASの高次化を促すと仮定し、プログラムを通じて仮説の実証と教育的方策を検討することを目的としている。平成27年度は本研究の初年度にあたり、次の2点を主な内容としていた。1点目は、発達に着目したプログラムを実施するため対象者を募り(A群)、既存のSASプログラムを実施すること、2点目は、既習のB群に対してSASの状態の確認と追跡調査を行うことである。1点目については、8歳児と14歳児について新たに3名の対象者を得て実践を開始できた。対象とした8歳児童は、当初計画にあった発達段階9歳には満たないが、9歳の節目をどのように超えていくかを見極める上でも適当な対象者であると考えている。2点目については、14歳児に対して継続的にプログラムを実施し、自己理解を中心にその認識の把握と提唱力を身につけるための支援方策を試行してきた。現在これらの事例については、分析を深めているところである。また、成人期にある対象者については、3度にわたり聞き取り調査を行うとともに、現在おかれている環境の把握、SASの行使状況とその結果、周囲の理解と対応について調査を行った。この結果の一部はすでに学会で発表しており(例えばSNE学会)、今後分析を深めると共に、論文としてまとめる。 計画にあった、合理的配慮の現状や提唱力(意志の表明)に関わる文化的差異の検討については、7月にバンクーバー(カナダ)で行われた国際LD学会への参加時の意見交流や、9月に赴いたスロベニアでの現地調査において多くの情報を得ることができた。とりわけスロベニアでは、年齢幅、障害種ともに広く設定して関連施設・学校をまわり、教員、教員養成に関わる指導者、大学教員、心理士等と意見交換を行うことができ、研究への示唆を得た。この内容については、分析でき次第、公表する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、発達段階を意識したA群へのプログラム開始と既習のB群への追跡調査を行うことを中心としていた。A群においては、8歳児と14歳児の新規3名へのSASプログラムを実施できた。B群に対しては、14歳児に対してのSASプログラムを継続的に実施すると共に、追跡調査として、成人へのインタビューを3度にわたって行い、データ収集できた。また、当事者の環境を理解した上での提唱力の行使が求められることから、所属する現場に行き、関係者からの聞き取りも行った。その結果の一部についてはすでに学会で発表している。これらのことからも順調に進んでいるといえる。しかしながら、18歳の発達段階にある新たな対象者の選定とプログラム開始については、本年度の実施が叶わなかった。この理由は、スタッフの確保にあり修正案を検討する。なお、A群、B群ともに、本年度分の分析と考察、プログラム修正案の作成に関しては、一部については順調に進んでいるものの、H27年度四半後期においては、体調不良のために計画通りに進めることができなかった。この点については、可能になり次第順次行う。 国内外における研究活動については、合理的配慮や意思表明について先行研究等を深め、学会や研修会等を利用して議論を交わしてきた。自己理解や提唱力については、国際的な視点が必要であると考えてきているが、これに対しては、カナダで開催された国際LD学会に参加し、北米を中心とした考え方について学んだ。加えて、スロベニア訪問では、様々な障害種を対象に横断的に支援とインクルーシブ教育の実現に向けての実践を学び、ニーズに応じた支援要請や、支援提供についてのヒントを得ることができた。これらは、本年度の実施計画の通りできており、このことからも順調に研究が進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、SASの高次化に向けて、発達的観点からどのように支援すべきか、また実際どのようにSASが高次化していくかを検討する。この際、より効果的なプログラムにしていくために、H27年度に実施したプログラムと追跡調査から得たデータを基に、修正版SASプログラムを検討し実施する。具体的には、これまで個のニーズや自己理解とコミュニケーション力の状況に応じたプログラムを主に実施してきたが、同年齢や異年齢、異なる発達段階にある対象児をグループ化して複数(最大でも3名程度)対象にしていくことで、自己理解の変化や提唱の仕方の違いなどを調査したいと考えている。これは、H27年度の実践の反省から生じた視点であり、当初の計画にはなかったものであるが、一度試行してみたところ効果が得られそうであったことから、本格的に検討を行うものである。また、18歳を対象としたプログラムを新たに実施することができなかった。これについてはスタッフの養成と確保を検討し、善処したいと考える。当初予定していなかった12歳の発達段階にある児童についても内省の発達の様子や小学校から中学校への環境が変わる移行期にあたることから、検討する必要性も見えてきた。この点についても、可能な限り実践していきたいと考えている。今後さらに、プログラムの継続的な実践の他、追跡調査による現状分析や修正版SASプログラムの効果検証を行っていく予定である。 文化的差異については、北米、豪州について事例を検討したいと考えており、当初の予定より少し遅れるが、H29年度を中心にこれらの検討を図りたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由としては、体調不良による出張回数の減少があげられる。とりわけ11月以降は、妊娠に伴う体調不良により、計画していた出張(学会への参加や取材調査等)はもとより、プログラム実施回数の若干の減少(それに伴う諸経費の減少)、論文執筆の延期(英文校閲等への使用額に影響)等により計画通り使用することができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度においては、6月末までの産休に入るまでの期間を中心に、プログラム実施に関する使用(文具、人件費、データ保存等)、学会への参加等への使用を計画している。また、データ収集については、可能な限り継続できる体制を整えることから、適切に使用できる範囲内で使用する。
|