研究課題/領域番号 |
15K04566
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
片岡 美華 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (60452926)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 自己理解 / 提唱力 / 自己権利擁護 / 事例検討 / 教育的プログラム / 発達段階 / 当事者研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、発達障害のある人のセルフアドボカシー(SA)の力が発達や経験を通してどのように高次化していくか実証的検討を図るものである。なお2016年から2019年度末まで産前産後休暇並びに育児休業のため研究を中断した。 2020年度は、前年度の課題であったSAプログラムの再開に向けて対象児と保護者への面談ならびに、スタッフの確保と研修を行いプログラムの実施に力を注いだ。コロナ禍でセッションが中断するなど予測不可能なこともあったが、学校訪問を行い教員との連携が行えたことや対象児の顕著な変容が見られたことなど成果につながった。 これまでの成果や文化的差異の検討については、例えば6月に招待されていた国際学会での基調講演が中止になるなど、当初の計画通りにはいかなかった。しかし国内学会については、2つの学会においてオンラインでのシンポジウムを開催でき、そこでの反響が予想以上に大きかったことからSAプログラムの教育的可能性についてさらなる手ごたえを感じた。他に学校現場でのSA教育の実施と指導について、小中高校の通級指導教室への取材を行うことができ、体系的な教育実践への知見を得た(取材の一部は執筆済み)。さらにコロナの影響もあって障害学生の相談件数が増え、その内容がまさにSAと直結していたことや、22歳頃の発達の節目が重要であることが先行研究からも示唆されていることから、年度末に当事者インタビューを行い本研究の追加データとして収集できた。加えて年度末には、本研究の最終成果で目指す「周囲支援案」のうちSAプログラムのスタッフ養成について、具体的に調査方法や内容の検討に着手できた。 一方、課題としては、SAプログラムのオンライン化を検討したものの、物理的環境の不備から容易に実行に移せず今後も検討を要する。また、文化的差異についても、国際学会の延期や中止もあり課題として残った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
育児休暇のため中断していた研究を2020年度より再開し、途絶えていた事例のデータ収集を再開することができた。また十分とは言えなかったが、成果の一部を国内学会のシンポジウムで報告するなど研究を少し進めることができた。しかし、コロナ禍で予定されていた国際学会が中止となったり、国際学会で講演しその後議論する予定であった機会がなくなるなど、本研究の文化的差異の検討が遅れ気味となっている。またコロナ禍と関わり、直接的な人との交流が遮断されたりしたことから学内の研究支援を受けてさえも育児との両立が困難となったり、研究のための時間が十分とれなかったりしてかなり苦戦した。それでも臨床研究が継続できていることと、これまで課題としてきたスタッフへの調査研究の目途がつき準備に着手できたことから、2019年度よりは一段階前進して「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、2020年度に再開したSAプログラムの継続的実施とデータ収集が中心となる。なお、コロナ禍が続いていることからもオンラインでのセッション実施が可能かどうかの検討もプログラムの特徴も踏まえて必要であると考えている。第二に、当初計画の「周囲の体制」についての研究と関わりスタッフへのSAについての理解度やプログラムを実施する上で課題となるスタッフ養成の内容と方法について調査を実施し、結果をまとめ公表する予定である。第三に、当事者へのSAに関するインタビューを新たに追加実施したことを含めこれまでのデータを分析し、発達段階と教育的方策の関係性を検討し、研究を取りまとめていきたい。現在、新学習指導要領の本格実施もあり、SAプログラムの教育的意義についてはニーズが高いことがわかっているので、研究成果については、さらにわかりやすく伝えていけるよう工夫したいと考えている。 一方、コロナ禍と関連して次年度も活動への制約を受けることが見込まれ、新たな事例の追加は、スタッフや三密を避ける場の問題から困難となると予想される。さらに文化的差異の検討については、国際学会等の中止や延期により困難さが見込まれる。むろんオンライン等での学会での活発な意見交換は本年度同様に、あるいはそれ以上に行う予定であるが(すでに国際学会での発表が決定している)、対面時と同じ雰囲気や質での討議は容易ではなく、工夫が必要であると考えている。有機的な会合が持てるよう、検討内容の具体化や視覚化などを行っていきたい。 なお、本年度に引き続き育児との両立を図るために学内の研究支援制度に申請を行っている。しかし本年度の状況からは、急遽入構不可となりセッションの中止やデータ分析ができなくなるなどあったため、この支援制度だけでは十分とは言えず余裕をもって進められるよう複数人の支援者に協力を求めたり、スケジュール管理にも努めていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度より育児休暇より研究に復帰したが、コロナ禍により参加予定であった国際学会が中止となったり、国内学会においても中止やオンライン開催となり、計上していた旅費が使えなくなったため。また県間の移動制限もあり、情報収集や意見交換においても予定通り進めることが困難であったため。人件費についても、コロナ禍での不透明な見通しに加え、実際入構不可の措置が取られるなどして安定的に雇用することが困難となったことから、使用できなかったため。 次年度の計画としては、本年度の課題を踏まえてSAプログラムのオンライン化検討のための環境整備(機材機器の購入含む)、データの客観的分析のための人件費や文献資料、検査機器などの費用。国際学会や国内学会への参加費、発表費用。英文校閲費やデータ保存に必要な機器や消耗品(文具含む)。最終報告書作成のための印刷費が必要であると考えている。
|