本研究は、発達障害のある人が発達やセルフアドボカシー(SA)の力を行使する経験を通してSAの力そのものが高次化するという仮説に基づき、実証的検討を試みるものである。 本年は最終年度に当たるが、継続実施してきたSAプログラムについて、遠隔によるセッションを交えつつ、対象児と保護者への聞き取りを含め、データ収集を行った。これについては、Zoomによる遠隔セッションが与えたSAプログラムへの影響や、プログラム内容(言葉かけ、方法等)の吟味と、対象児の変容について検討を重ねている。また、当初目的の一つである「周囲支援案」のうち、スタッフ養成について過去のスタッフへの聞き取り調査を実施した。スタッフ養成は、SAを受け止める側の理解と態度を向上させる上で鍵となると考えるが、2016年から2019年度末までの産休・育休による中断から、SAプログラム実施上でも喫緊の課題となり、スタッフが身に着けておくべき資質や養成の体系的な在り方について検討を行った。本件については一次的な集計とまとめが終わり、次年度公表予定である。 本年度もほとんどの学会がオンラインで行われたが、本研究の新たなデータやこれまでのまとめを国際学会をはじめ様々な学会・紙面において積極的に発表した。さらに2月には研究期間全体の成果を報告書として作成し配布を行った。 一方課題としては、研究期間後半のコロナ禍で文化的差異についての積極的な議論が困難になったこと(一部の研究者とは議論を交わせた)、小学生から中学生のデータが充実したが、高校生のデータが十分でないままであること、既存のデータ(大学生の状況やプログラム評価等)の論文化が挙げられる。しかし発達に応じたSAの力の表れ様やそれに即したプログラム内容の吟味、スタッフ養成の具体について検討できたことは意義深く、今後実践をブラッシュアップし、教育現場に広げていけると期待している。
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