発達性読み書き障害(以下DD)には書きそのものに難しさをもつ者も多く、書きのつまずきの背景を探る上で運動覚を伴う記憶(運動覚性記憶)と視覚構成能力、特にどこをひとまとまりとして捉え、どのように構成していくかという構成方略の問題を掘り下げる必要があると考えられた。 運動覚性記憶を運動覚性書字再生課題および運動覚性音読課題を用いて測り、定形発達児とDD児に実施した。その結果、5名のDD児のうち4名に運動覚性書字再生および運動覚性音読に定形発達同学年平均に比べ顕著に困難さがあった。 運動覚性記憶の不良さが運動覚刺激の感覚受容の問題でないかを確認するために手指関節の関節位置覚の再現角度誤差を求める方法で運動覚を評価したところ、6名のDD児全例で同年代平均より逸脱していた。DD児には高い確率で関節位置覚の再現による運動覚が不良であることが示唆された。しかし、運動覚が不良でも運動覚性書字再生および音読の成績が不良でない事例もいたことから、運動覚が不良であることが運動覚性記憶の形成に必ずしも影響を及ぼすわけではないと考えられた。 構成方略を漢字の中のまとまりを見つける課題を作成し、それを用いて測った。まとまりを見つける課題とは、偏旁の構成上の位置が同じである中国語簡体字4文字に構成上の位置が異なる文字1字を入れた、計5文字の選択肢を用意し、構成上の位置の異なる1字と同様の構成をもつ文字もう1字を提示し、最も似ている文字はどれかと選択させる課題である。1名のDD児でビジョンアセスメントWAVESおよびReyの複雑図形検査とともに実施したところ、どの程度ひとまとまりに描いたかの評価であるReyの図OSSが顕著に不良であり、文字の中のまとまりを見つける課題も不良であったため、構成する際、まとまりの認識が薄く、まとまりごとに再生するなどの構成方略の問題をもっている可能性がそのDD児で示唆された。
|