研究課題/領域番号 |
15K04582
|
研究機関 | 別府大学短期大学部 |
研究代表者 |
阿部 敬信 別府大学短期大学部, その他部局等, 教授 (90580613)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 日本手話 / 日本語 / バイリンガル教育 / 読解力評価 |
研究実績の概要 |
本研究では,まず,ろう児の読解力評価テストを開発し,ろう児の読解力のレベルを測定できるようにすることを目的とする。次にそのろう児の読解力レベルに応じた日本語多読読み物を開発・作成することを目的とする。つまり、研究内容としては大きく分けると(1)ろう児のための第二言語としての日本語読解力テストの開発と実施と(2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供ということになる。 初年度である平成27年度は、(1)ろう児のための第二言語としての日本語読解力テストの開発と実施としては、研究対象校の小学部児童の基本的な実態把握のために、レーブン色彩マトリックス検査(小学部1年~6年児童30名)、絵本「Frog,where are you」の児童の日本手話による語りのビデオデータ収集(小学部1年~6年児童30名・教員1名)、「Frog,where are you」の児童の日本語作文データ(小学部3年~6年児童18名・中学部1年~3年生徒12名)の収集を行った。また、(2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供については、研究対象校の小学部児童30名に読書行動の特徴を知るために「あなたは読書が好きですか」「最近読んで興味をもった本の題名を教えてください」という質問項目で構成される半構造化インタビューを行った。さらに、研究対象校に附置されている「バイリンガルろう教育センター」の研究員と継続的に研究協議を行い、リライト文による読み物の作成やレベル分けについて助言を得ることができた。他にも筑波大学の研究グループによる年少者日本語評価科研ワークショップに参加して、評価に係る貴重な知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ろう児のための第二言語としての日本語読解力テストの開発と実施については、当初、先行研究の収集と分析のみを予定していたが、研究対象校附置の「バイリンガル教育センター」研究員との協議により、対象児童の実態把握を行うことになった。研究対象校の全面的な協力により、非言語性知能検査、第一言語である日本手話、第二言語である日本語のデータがそれぞれ30名分を収集することできた。これにより、読解力テストの開発の基礎データを得ることができたことは当初計画以上の進展であるといえる。これにより、日本語多読読み物(JGR;Japanese Graded Reader)の2級レベルまでを0級から設定してレベル分けを細かく設定する必要があることが分かった 一方、(2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供については研究対象校の小学部児童30名に読書行動の特徴を知るための「あなたは読書が好きですか」「最近読んで興味をもった本の題名を教えてください」という質問項目で構成される半構造化インタビューを行うにとどまった。この調査により、自発的な読書行動としては、ほとんどの児童がマンガを読み、そこから情報を得ていることや、図鑑や絵本といった図版が主となる本を好んでいることが分かった。よって、日本語多読読み物については、図版を中心にして、文章も初級レベルの語彙と文法で統制しておくことが示唆された。計画では、日本語多読読み物の作成の仮レベル設定と基本的考え方を策定することにしていたが、それはできていない。 よって、総合的に考えて「(2)おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)ろう児のための第二言語としての日本語読解力テストの開発と実施については、まず、研究対象校の児童の基本的な実態把握を引き続き行う必要があると考える。対象児童の言語能力の基盤となる第一言語である日本手話の能力をモニタリングしておくために、絵本「Frog,where are you」の児童の日本手話による語りのビデオデータ収集は行いたい。さらにできれば認知的な力も把握したいのでDN-CAS認知評価システムも実施しておきたい。日本語読解力テスト試作版を作成して、対象児童に対して試行を行いたい。なお、試行版の構想としては、同時に開発する日本語多読読み物の各「レベル」から1種類を選定し,評価のための基準本として、その基準本について読解の内容についての評価テストを作成することを考えている。 (2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供については、平成27年度に収集した日本語作文データを分析して、語彙の種類や文法の複雑度のコントロールの調査を行い,ろう児のための日本語多読読み物の仮の「レベル」決定を行う。また、附置されている「バイリンガルろう教育センター」ではリライト文による教科書等の書き換えを実施しており、それも参考にしたい。なお「レベル」については5水準程度を想定している。また、半構造化インタビューの分析を早急に終えて、日本語多読読み物の内容を決定する必要がある。その際には、対象児童や対象校教諭の意見を参考にしたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(1)ろう児のための第二言語としての日本語読解力テストの開発と実施において、読解力テスト等で日本手話の動画による出題を予定していることから、HDD動画編集が可能なパーソナルコンピュータ1台の整備を考えていた。また、研究は、総合的に考えておおむね順調に進展している。しかしながら、(2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供おいて、日本語多読読み物の仮レベルの設定や作成における基本的考え方が整理している段階であり、レベルごとの基準本が決められていない。そのため、読解力テスト作成に至る段階にきていないので、パーソナルコンピュータの購入をしていないことが主な要因である。
|
次年度使用額の使用計画 |
(2)ろう児のための日本語多読読み物の開発と提供おいて、日本語多読読み物の仮レベルの設定や作成における基本的考え方が整理を行った上で、レベルごとの基準本の設定を行い、読解力テストの試作段階の準備を行うとともに、HDD動画編集が可能なパーソナルコンピュータ1台の整備の検討に入る。
|