研究課題/領域番号 |
15K04589
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上野 貢生 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (00431346)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 光触媒 / 金ナノ微粒子 / プラズモン |
研究実績の概要 |
平成27年度は、はじめに走査型透過電子顕微鏡(STEM)および電子エネルギー損失分光法(EELS)により計測する技術、および既設の集束イオンビーム(FIB)やイオン研磨(PIPSII)により透過電子顕微鏡測定用サンプルを作製する技術の向上を図った。また、ニオブドープ酸化チタン単結晶基板表面に金ナノ微粒子を原子レベルで完全に接触させて作製する方法の条件出しを行った。アニール温度や雰囲気によって金ナノ微粒子と酸化チタン界面の密着性が変化し、高温でアニールするほど密着性が向上した。しかし、800℃よりさらに高温にするとニオブの濃度分布が変化し、電気伝導率が極端に低くなったことから800℃の温度条件を使用した。窒素ガスをフローして基板をアニールすることにより、酸化チタン表面上に数原子層分の還元層を作製することも可能であり、本法や酸化剤により金ナノ微粒子/酸化チタン界面や酸化チタン表面の酸化状態を制御した。また、金属ナノ粒子を担持した酸化チタン基板上への紫外光照射によって誘起される金属への電子注入を高分解能に計測する方法論を明らかにするために、EELSを使用して酸化チタン電子状態(チタンの3価と4価の比率)を追跡する計測法を明らかにした。さらに、金属ナノ微粒子の電荷密度の変化をEELSによるプラズモンロススペクトルの波長シフトにより追跡する方法論を検討した。また、プラズモンを同時に励起した場合の影響についても検討を行った。EELSによる点分析を行うことで、1 nmの分解能で界面や酸化チタン表面の電子状態の空間分解計測が可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
STEMやEELS計測技術、そしてFIBなどによる加工技術の向上を図るとともに、金属ナノ微粒子と半導体界面の酸化状態の制御に成功した。特に、酸化剤を用いて表面酸化状態を制御することに成功した点は、当初の計画に無く、より厳密に制御することが可能であることを明らかにした。また、STEM-EELSを用いた点分析により1 nmの分解能で表面の酸化状態を追跡することに成功したことから、おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、プラズモン共鳴を誘起し、金から酸化チタンへの電子注入に基づいて形成された正孔の分布を追跡する。プラズモンによる電荷分離では、金の電子が酸化チタンの電子伝導体に電子移動することは明らかになっているが、形成した正孔が局在している空間分布については明らかになっていない。しかし、近赤外光照射でも形成された正孔によって効率的に水の4電子酸化反応が誘起され、酸素が発生していることをすでに明らかにしており、ホットサイト近傍の金/酸化チタン/水の界面近傍において正孔が酸化チタンの表面準位に捕捉され、多数の正孔が同時に水分子と反応することにより効率的に多電子酸化反応が誘起されているものと考えられる。そこで、金ナノ微粒子のプラズモンロススペクトルの変化を計測したり、EELSによる点分析を用いて酸化チタンの電子状態を追跡したりすることにより、正孔が局在化されている空間分布を可視化する。また、酸化チタンのルチル以外にもチタン酸ストロンチウムなどの異種酸化物半導体でも同様の計測を行い、その特性の違いについても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度末頃の研究において、金属ナノ微粒子の分光特性を明らかにする実験において、透過スペクトル測定だけではなく発光スペクトル測定も必要であることが分かった。そこで、平成28年度は、新たに金ナノ微粒子の発光分光特性の評価を行うための光学部品を購入するために平成28年度に若干配分した。
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次年度使用額の使用計画 |
光学部品(フィルターやレンズ)の購入に使用する予定である。光学系の構築は4月から行うが、現有の部品と組み合わせて使用するため、無駄とならないように吟味しつつ、平成28年7月以降に使用を計画している。
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