研究課題/領域番号 |
15K04592
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
菅野 公二 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (20372568)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 1分子検出 / ラマン分光 / 表面増強ラマン散乱 / プラズモニクス / 金ナノ粒子 / 多成分分析 / 定量分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,巨大な表面増強ラマン散乱(SERS)を生み出すナノ粒子二量体アレイの高効率生成技術および高速高感度SERS分光分析技術を基盤として,多成分溶液に含まれる分子を1分子ずつラマン分光検出することにより,溶液中に含まれる分子の種類および個数(濃度)を同定する多成分定量SERS分光分析技術(デジタルSERS分光分析)を構築することである。これにより,従来SERS分光分析では不可能であった多成分定量分析が可能となり,クロマトグラフィなどの他の技術と比べて格段に高感度かつ迅速な化学分析技術を実現する。 目的実現に向けて,平成28年度は以下の項目を実施した。(1) 金ナノ粒子二量体アレイはその増強度に大きなばらつきを有することが明らかになったため,1分子検出能力を有する金ナノ粒子二量体アレイを選別するために金ナノ粒子二量体アレイ毎の増強度を評価する手法を確立した。これにより,効率的な実験が可能となり,さらに実用化に向けた問題を解決することができる。さらに同様の手法を用いて金ナノ粒子サイズの最適化を行った。(2) 複数種類の分子の検出可否を調べるため金ナノ粒子二量体配列構造を用いたDNA塩基4種(濃度10pM)の計測を行った結果,それぞれ特徴的なピークが検出され,DNA塩基4種の高感度識別に成功した。(3) 一度の計測から1分子のみの情報を得るためにアレイ構造ではなく単一二量体構造を作製し,その高感度分子検出能力の評価を行った結果,アデニン分子のラマンスペクトル取得に成功した。この結果から複数種類の分子を同時に検出する問題を解決することができる。さらに,単一金ナノ粒子二量体構造を用いたDNAオリゴマーの1分子検出・同定可能性の検証を行い,オリゴマー成分の1分子検出に成功した。この結果から複数種類の成分分子の同定が可能であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度には以下の成果が得られた。 (1) 金ナノ粒子二量体アレイ構造のラマン増強効果の度合をあらかじめ評価する手法を提案・評価した。粒子に付着した分子のSERS実験から,粒子連結方向を基準とした入射光偏光角度が大きくなるにつれてSERS強度が減少する結果が得られた。これは解析から得られた電磁場増強度の傾向と一致する。そのため電磁場増強度を評価できることが明らかとなった。次に4,4'-ビピリジン分子の検出を行い,付着分子とのラマン強度の比較を行った結果,両者に相関関係があることがわかった。さらに,従来直径100nmの金ナノ粒子を用いていたが,より高いラマン増強度を得るために粒子サイズの最適化を行った。直径200nmまでラマン強度が増加する結果が得られた。この傾向は電磁場シミュレーションにおいても見られており,より高い増強度を実現した。 (2)複数種類の分子の検出可否を調べるため金ナノ粒子二量体配列構造を用いたDNA塩基4種(濃度10pM)の計測を行った。その結果,それぞれ特徴的なピークが検出され,DNA塩基4種の高感度識別に成功した。従来のDNA塩基4種の検出下限濃度が10nMであることから,大幅な高感度化が実現された。 (3) 一度の計測から1分子のみの情報を得るためにアレイ構造ではなく単独二量体構造を作製し,その高感度分子検出能力の評価を行った。マッピング測定では,局所的にラマン強度が高い箇所が観察され,局所的に高い増強効果が得られていることが確認された。連続測定では0.1 sの積算時間において明滅現象が観察され1分子の検出が可能であると考えられる。さらに,単一金ナノ粒子二量体構造を用いたDNAオリゴマーの1分子検出・同定可能性の検証を行い,オリゴマー成分の1分子検出に成功した。この結果から複数種類の成分分子の同定が可能であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,単一金ナノ粒子二量体を用いて1分子のSERS計測が可能であることが明らかになっている。平成29年度は,目的である多成分定量分析デジタルSERS分光分析実現に向けて,原理実証を進めていく。金ナノ粒子二量体がレーザスポット径(約2μm)以上の間隔(約5μm)で配列され,レーザをスキャンすることで二量体ごとに1分子を検出する。これにより,多成分溶液からそこに含まれる分子の種類と個数(濃度)を得る。本研究で作製する構造では金ナノ粒子二量体が向きをそろえて配列されている。従来技術では向きがそろっていなかったため,逐一入射光偏光方向と二量体の向きをそろえる必要があったが,本研究では効率的な実験が可能であるとともに,分析にかかる時間を大幅に短縮することができる。検出対象となる分子はDNA塩基4種類,および細胞からの代謝物質4種類,残留農薬4種類を選択し実験を行う。 本実験では,原理実証を行うとともに,金ナノ粒子二量体ごとに必要な1分子検出時間および適切な分子濃度範囲を実験的に導き出す。一度の実験に用いる金ナノ粒子二量体の数は1000とし,0.1秒での1分子検出を想定する。場合により,1分子からのラマン信号強度が不十分である可能性がある。一つのラマンスペクトルのフィッティングなどデータ処理により,1分子検出可否の強度の閾値を明らかにすると共に,データ処理アルゴリズムを構築する。本研究は膨大なデータ数を取得し原理実証を行う必要があるため,金ナノ粒子二量体配列を有するチップを大量に作製し実験を進めていく。最終的に,提案手法の実現可能性とともに,提案手法が実現できる分析条件を明らかにすることを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではナノ構造作製のために電子ビーム描画装置が必要となる。この作製実験を京都大学ナノテクノロジーハブ拠点の設備を利用して行っている。当初の計画よりも作製結果が良好であり,短時間で作製できたため,その利用料を抑えることができた。また,次年度に大量のサンプルを作製する必要があるため,利用料を抑える必要があった。さらに,当初計画していた国際会議への参加を見送ったため,旅費の支出を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には次年度使用額をその他(施設利用料,論文掲載料)および物品費,旅費に充てる。平成29年度は大量のサンプルを作製する必要があるため,そのための施設利用料,物品費が必要となる。さらに,これまでに得られた成果を外部に発表するための論文掲載料や学会発表のための旅費・参加費に次年度使用額を充てる。
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