本研究では、半導体量子井戸中に生成された光励起キャリアが井戸中を伝搬する様子を空間・時間の両面における高分解能測定によって詳細に観察すると共に、理論計算との比較によって伝搬メカニズムにおける重要な要素を明らかにすることを目的に、実験と理論の両面から研究を進めた。実験面では、ナノスケールでキャリアの生成と観察を独立に行うことが可能な多探針近接場光学顕微鏡(多探針SNOM)に新たに時間分解測定法を組み合わせることで時間分解多探針SNOMシステムを構築し、半導体量子井戸材料における発光の局所時間分解測定を行った。平成28年度までに、高空間・時間分解能測定に向けた開口型光ファイバプローブの最適化、時間分解多探針SNOMシステムが納まる真空チャンバ内外の光学系の構築、及びそれらの動作確認を行った。最終年度である平成29年度は、実際に窒化インジウムガリウム多重量子井戸を試料として用いて、高分解能イメージング分光測定及び発光の局所時間分解測定を実施し、良好な結果を得た。一方、理論面では、半導体量子井戸中に生成された非平衡状態にある励起子キャリアが量子井戸のポテンシャル揺らぎの中を拡散する様子について、現象論的な拡散方程式を発展させることで空間と時間の両面から考察を行い、半導体量子井戸中における光励起キャリアの時空間ダイナミクスの正確な記述を目指した。計算機シミュレーションによる数値計算結果と実験結果の比較により、光励起キャリアの拡散は密度分布の立ち上がり時間に強く反映されることを確認した。
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