本研究では単層カーボンナノチューブ(SWCNT)フィルムの熱電物性の向上を目的とする。初めにこれまでの成果の概要を以下に列挙する。 (1)SWCNTフィルムの平均直径とキャリア数を変えて、ゼーベック係数と電気抵抗率を測定した。その過程で水雰囲気がホールドープ効果をもつことを見出した。理論計算との比較から、出力因子の最大値が半導体型SWCNTのエンリッチで約3倍向上できること、直径には依存しないことがわかった。 (2)硝酸による高濃度ホールドーピングの出力因子に対する影響をゼーベック係数と電気抵抗率測定から調べ、SWCNTの一次元バンドに起因した複数のピークが出力因子に現れることを明らかにした。この結果は、未分離のSWCNTフィルムでも適切なキャリアドープで半導体型に匹敵する出力因子を示すことを意味しており意義深い。 最終年度は、様々な合成方法で作成されたSWCNTフィルムのゼーベック係数、電気抵抗率、熱拡散(伝導)率について系統的に調べた。電気抵抗率が試料によって大きく変化するのに対して、ゼーベック係数の最大値が50-80μV/Kで一定であることが分かった。また、出力因子が電気抵抗率に反比例する傾向を明らかにした。フィルムの電気抵抗率はSWCNTの長さや配向により制御できるので、より抵抗率の低いフィルムを作ることで、さらに大きな出力因子の実現が期待できることを意味する意義深い結果である。一方、熱拡散率に関して、電気抵抗率がホールドープで顕著に変化するのに対し、熱拡散率はほぼ一定値となり熱伝導への伝導キャリアーの寄与が極めて小さいことを確認した。また、電気抵抗率が小さい試料ほどZTが上昇する傾向を持ち、半導体型試料でも同様な傾向を仮定すると、電気抵抗率の小さな半導体型フィルムによりZT~1の実現が期待できる。この結果を日本物理学会シンポジウムで発表を行い、現在論文投稿準備中である。
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