研究課題/領域番号 |
15K04604
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
源明 誠 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (70334711)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ表面・界面 |
研究実績の概要 |
本研究では,高分子-水界面における水の動態を,ナノ・メゾスケール領域(数百ナノメートル領域)をターゲットに明らかにし,材料の生体適合性と表界面水の動態との相関を明らかにすることを目的とする。本研究は,1990年代のナノテクノロジーによる材料開発を通して2000年代のナノ・メゾスケールの構造制御の優位性が見出されたと同様に,固-液メゾスケール界面における媒質の分子像を明らかにすることで,界面現象の新たな知見を得ようとする研究の第一歩と位置づけられる。 固体表界面の100 nm領域の水の振動スペクトルを測定可能な内部全反射近赤外分光システムの構築を試みた。入射角45-65度(5度刻み)のシリコン製内部全反射結晶を自作し,シラノール表界面の水の近赤外スペクトルを取得可能にした。入射角度が大きくなる,すなわち,表界面からの測定領域が小さくなるに伴い,水由来の吸収シグナルが相対的に強くなり,表界面で水が濃縮あるいはバルク中とは異なる水素結合ネットワーク構造を有していることが示唆された。水分子は最大で4つの水素結合を形成することができるが,近赤外領域の水の吸収スペクトルを解析することで,その存在比を得ることができる。近赤外領域の水の内部全反射吸収スペクトルをガウシアンデコンボリューションにより成分分離を行ったところ,3つの水素結合を有する水分子の存在割合が界面近傍で大きくなることが分かった。これまでのシラノール表界面水に関する研究では,氷様水,すなわち4つの水素結合をした水が構築さていると報告されているが,本研究での結果と一致しない。今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,近赤外領域での全反射分光法を「水」に適用しようとする試みである。近赤外領域の水の吸収係数は,基本振動(中赤外領域)の1000分の1以下である。透過法においては,この低い吸光係数が水溶液系の測定において有利に働くが,全反射吸収法においては不利に働く。本年度は,研究実績の概要でも述べたように,全反射近赤外分光法により,界面水の近赤外吸収スペクトルを,解析可能な信号雑音比で得ることを可能にしており,目標とする表界面ナノ・メゾスケール領域の水の構造解析をできることを示した。本研究において全反射吸収近赤外分光法の構築は,基盤技術の確立で有り,本研究の進捗状況はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに,内部全反射吸収法による近赤外領域での水のスペクトル測定法を確立した。これまでの検討は,室温(298 K)のみの評価であったが,次年度は,温度摂動による水分子の水素結合形態の変化を明らかにする。バルク水中においては,温度の上昇に伴い,相対的に水素結合数が減少することが知られているが,温度摂動に伴うシラノール表界面における水の水素結合形態の変化については明確ではない。また,水素結合を形成するメタノール,エタノール,さらにプロパノールについても同様に評価する。これらのアルコール類に関する中赤外全反射分光法による先行研究によれば,固体表面のシラノール基を起点にマクロクラスターを形成するとされる。これらの系は,シクロヘキサン中に僅かに存在するアルコール類が水素結合サイトを有する固体表面(シラノール表面)に集積されると報告しているが,アルコール類のみの系については明らかにされていない。 上述のシラノール表面に加え,タンパク質および繊維芽細胞の吸着および付着を抑制する表面についても,同様に内部全反射近赤外分光法により,表界面の水の構造評価を行う。これまでの検討から,アニオン性およびカチオン性モノマーからなるランダム共重合体は,その水溶液をシラノール表面に接触させるだけで,~1 nm程度の固着膜を形成し,タンパク質の吸着を強く抑制することが判っている。アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合比を変化させることで,タンパク質の吸着挙動が変化することも明らかにしている。これらの共重合体のタンパク質吸着抑制能と表界面の水の構造の相関を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた近赤外分光測定装置用のドライエアー発生装置の購入を見送った。これは,本研究とは別に行っていた共同研究で用いていたドライエアー発生装置が,本研究に適用可能で有り,当該装置の譲渡を受けたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
固体基板,具体的にはシリコン基板およびガラス基板の化学的あるいは物理的修飾を行うために必要なガラス器具,攪拌機,実験スタンド,化学実験に必要な器具を購入する。また,固体基板表面修飾に必要な薬品類を購入する。 また,経年劣化により使用困難となりつつある装置制御ユニットの更新をする。具体的には,データ通信機器であるRS232CおよびRS488シリアル-USB変換ボード,ステッピングモーター駆動自動光学ステージを購入する。さらに,分光測定の迅速化のために必要な光ファイバー型分光器用の光学ステージを購入する。
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