固体表界面のメゾスケール領域(100-200ナノメートル)の水構造を明らかにするために,これまでに用いられることのなかった近赤外光(波長1.6-2.5マイクロメートル)を用いた内部全反射法を適用した近赤外内部全反射分光装置を確立し,シラノール表面の水構造を評価した。当該分光法の開発により,全反射素子にシリコンを用いることで,固液(水)界面500ナノメートル以下を,段階的に100ナノメートルまで分別的測定を可能にした。 室温における波数7000付近のOH対称伸縮振動+OH逆対称伸縮振動(結合音1)と波数5000付近のHOH変角振動+OH逆対称伸縮振動(結合音2)の相対強度の比較し,シラノール表面から300ナノメートル以下の領域で水の密度が上昇している,または,水の吸光係数を上昇させる水構造の変化が確認された。この現象は,重水を用いた評価からも確認された。結合音1のスペクトル成分分析(Gaussianデコンボリューション)から,シラノール表界面の水は,水構造の混合モデルに基づく解釈によれば,界面領域300ナノメートル以下で,バルク水と比較して,単量体および5量体の水分子が多く存在し,2および3量体の水が減少していることが明らかになった。現在,これらの結果が,先述した密度上昇あるいは特異な水構造の存在の何れを説明しうるのかを検討中である。 さらに,同分光装置により,278 Kから318 Kの温度範囲で,表界面の水構造の温度変化について評価した。バルク水の場合,温度上昇に伴い,単量体および2量体の水分子が相対的に増加し,3,4および5量体の水が減少するのに対して,シラノール表界面150ナノメートルの水は,単量体および2量体の相対量は変化せず,2および4量体が減少,3量体の水のみが増加した。この結果は,固体表面のシラノール基と強く相互作用した水分子の存在によるものと考えられる。
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