研究課題/領域番号 |
15K04605
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
加藤 知香 静岡大学, 理学部, 准教授 (00360214)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / 白金 / 光触媒 / 水素発生 / 可視光 / 焼成処理 / 助触媒 / 単結晶X線構造解析 |
研究実績の概要 |
白金は,自動車排ガス触媒,光触媒,酸化触媒,燃料電池電極等,幅広い分野で利用されている元素であるが,埋蔵量の減少や価格上昇,合成・反応時の凝集・シンタリングによる機能低下等が問題となっている。それらの解決策として,固体状態でも白金サイトを原子レベルで利用できる技術の開発が重要な鍵となる。これに対し,申請者らは最近,分子性の金属酸化物クラスターであるポリオキソメタレートの骨格構造の一部を位置選択的に欠損させ,その欠損サイトにcis-[Pt(NH3)2]2+種を配位させることで,安定かつ均一な二核白金サイトを有する化合物([(CH3)4N]4[SiW11O39{cis-Pt(NH3)2}2]・13H2O,[(CH3)4N]4[GeW11O39{cis-Pt(NH3)2}2]・11H2O)の合成および構造解析に成功した。また,得られた白金化合物のアルカリ金属塩を250℃で焼成処理すると,ポリオキソアニオン骨格構造を保持した状態でアンモニア分子のみが脱離した水溶性の白金化合物が得られることが分かった。得られた白金化合物を助触媒として用い,エオシンY,ケギン型アルミニウム一置換ポリオキソメタレート,酸化チタンをトリエタノールアミン水溶液に溶解または分散させた系に440 nm以上の可視光を照射すると,反応初期から高効率に水素が発生し,6時間後の白金一原子当たりのターンオーバー数は4886および4849に達した。これは,焼成前のCs3[PW11O39{cis-Pt(NH3)2}2]・8H2Oのターンオーバー数(703)に比べ,著しく高活性であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度は,新規に合成・構造解析した二種類の白金種配位ポリオキソメタレートのセシウム塩を250℃で5時間焼成処理することにより,アンモニウム分子が脱離した新たな水溶性の白金化合物が得られることを見出した。また,焼成処理により得られた化合物を助触媒に用い,エオシンY,ケギン型アルミニウム一置換ポリオキソメタレート,酸化チタン共存下で440 nm以上の可視光を照射すると,トリエタノールアミン水溶液から高効率に水素が発生し,白金一原子当たりのターンオーバー数は焼成前のサンプルに比べて7倍程度向上することが分かった。現在は,焼成温度を200~800℃の間で変化させたときに得られる固体の構造と触媒機能について検討中であるが,700~800℃で焼成するときに得られる不溶性の固体が不均一系で高い白金原子効率を示すことが明らかとなりつつあり,白金の原子レベル利用へ向けた技術開発は,概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果で,白金化合物の光触媒活性に対する焼成処理の効果が予想以上に大きかった事実を踏まえ,来年度以降は,焼成処理により変化した白金化合物の構造決定と,焼成条件が光触媒活性へ及ぼす影響について詳細に検討する予定である。また,水からの水素発生に対する活性評価(特に,助触媒としての利用)に加え,焼成処理により新たに発現した可視光領域の吸収帯を利用した光増感剤としての機能評価や,有機分子の光酸素酸化,有害物質の光酸化分解等に対する触媒活性についても検討する予定である。一方,白金化合物の水素発生モジュールへの応用に向けて,酸化チタンや炭素材料などの固体表面への固定化技術を確立し,リーチング,安定性・耐久性,再利用に関する知見を総括する。
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