研究課題/領域番号 |
15K04606
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小海 文夫 三重大学, 工学研究科, 教授 (40345997)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / ケイ素 / ナノワイヤー / ナノチューブ |
研究実績の概要 |
28年度では,堆積した3種類の一次元ナノ構造(Ge/Si合金NW,Ge/SiコアシェルNWおよび酸化ケイ素NW)の生成物の電子顕微鏡観察,組成分析等に加えて,ラマンスペクトルに基づく解析を行った。ラマンスペクトルには,Si-Si,Si-GeおよびGe-Geの3種類のバンドが観測された。Siが豊富なターゲットから得られる合金NWではひずんだ状態を示すSi-Siバンドが観測され,Geを70%程度含むターゲットから得られるコアシェルNWは3種類のバンドがほぼ同等な強度比で観測されることがわかり,生成物の違いを明確に表わしている。 また,Geが豊富なターゲット(90から95%の範囲)から得られる酸化ケイ素NT(Geが95原子量%の場合,直径10から99 nm,長さ5 μmまで)について,詳細な解析を行った。NTの層の厚さは,6から22 nm程度(平均13 nm)で限られた厚さであることが判明した。安定構造に由来する可能性が示唆される。NTの片方の先端にはGeが豊富な粒子が存在しており,粒子径とNT直径には強い相関性があり,Si,Oなどの原料がGe粒子の表面拡散するvapor-liquid-solid機構により,チューブ構造が形成されると考えられる。 27年度は合金NWを用いたLIB充放電試験に着手したが,28年度は, Ge/SiコアシェルNW(Geが70%のターゲットからは,直径28から92 nm,長さ500 nmまでの形状)が主生成物の試料を用いて,LIB放電試験を行った。市販のLIB負極に使用されているグラファイトの理論容量の3倍以上,合金NWの場合より100 mAh/gほど大きな放電容量である約1300 mAh/gが得られた。さらに,NW試料を用いて,フォトルミネッセンス(PL)測定に着手した。NWを分散させるための極性および無極性溶媒の探索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特徴は一次元状ナノ構造成長に異種元素の金属触媒(応用に際して不純物になったり,ナノ構造内部に入り込む可能性)を使用しないことである。レーザー蒸発と高圧Arガスを併用する高温・高密度反応場で,溶融するナノ粒子(形成されたNWおよびNTの片方の先端にはナノ粒子が付着しており,溶融粒子からの成長が関与していると考えられる)が形成され,一次元状ナノ構造の析出成長の種(シード)として働く。組成の異なるGe/Siターゲットを原料として用いているが,SiとGeの二元系相図において,SiとGeが全率で固溶体を形成し,SiとGe量が異なる一次元状ナノ構造の成長が期待できる。 3種類の一次元状ナノ構造のつくり分けが可能であることが判明し,さらに28年度では酸化ケイ素NTの成長について詳細な解析ができた。通常の金属触媒によるNT成長では,NT原料に比べて,用いる金属触媒量は1から多くても10原子量%である。本研究での酸化ケイ素NTにはGeナノ粒子が片方の先端に付着しており,Geが触媒となる成長過程が関与している。合金粒子ではなく,純粋なGeナノ粒子が存在することが不可欠であり,酸化ケイ素NTの溶融粒子からの成長は過去に報告例がない新規で独自性のある研究成果である。本研究グループでは中空構造ではない酸化ケイ素NWの作製に成功しているが(J. Phys. Chem. C 117, 25169 (2013)),28年度において,原料のバルク拡散と表面拡散の違いを反映する成長過程の関与の知見を見出したことは,学術的に意義のある研究成果であると自己評価する。 従来の報告とは異なる新規な高圧ガス中レーザー蒸発法により,3種類の一次元状ナノ構造を作製でき,2種類のNWをLIB負極として評価でき,高容量が得られることがわかったこと,PL測定に着手できたことから,おおむね順調に研究が進捗していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Ge/Si固体ターゲットから3種類の一次元状ナノ構造が得られることが,本研究の特筆すべき特徴である。しかしながら,3種類のナノ構造の詳細構造の解明が不可欠と考えている(例えば,コアシェルNWでのコア部分の直径とシェル部分の厚さやコアとシェルの境界の状態,合金NWとの明確な違いなど)。そのために,高分解能の透過型電子顕微鏡観察による解析を進める。28年度のラマンスペクトルの解析からは,合金NWおよびコアシェルNWはある程度の結晶性を持つこと,酸化ケイ素NTはアモルファス性を持つことが示唆されており,一本の一次元状ナノ構造(3種類)について,電子線回折から確認する予定である。 また,3種類の一次元状ナノ構造の片方の先端に付着している粒子の詳細組成の解析を進め,析出成長について解析し,Ge/Si自己触媒およびGe触媒成長を引き起こす要因を明らかにする。NW成長とNT成長を比較して検討し(例えば,バルク拡散と表面拡散の影響他),過飽和析出の程度の違いなどが,核形成と一次元方向成長を支配する要因について,詳細な解析を行う。高温の原子,クラスターを高圧ガス中に閉じ込め,強制的な衝突,相互作用を引き起こすことから,触媒として働く溶融粒子シードを自発的につくる特殊な成長機構の提案を行う。 Ge/Si合金NW,コアシェルNWおよび酸化ケイ素NTのLIB負極特性を比較しながら評価し,さらなる応用研究の展開をはかる。PL測定を二成分系であるGe/SiNWと酸化ケイ素NTで比較しながら行う。固体フィルム試料への分散性も考慮し,センサーやイメージング技術としての応用可能性について評価する。
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