研究課題
発光性キラル化学種の中には円偏光発光(CPL)を示す化合物が存在する。有機系CPL材料は無機材料に比べて材料の柔軟性、分子設計の自由度、多様な材料加工・操作性および比較的安価であるという利点から注目されている。有機CPL化合物の研究開発に関して、近年多くの注力が注がれているのが発光効率(量子効率:Φ)と円偏光度(glum値)のtrade-offの改善である。CPL強度の定量的な評価の指標である、Kuhn非対称性因子(glum = 4|m||μ|(|m|2+|μ|2)-1cosθ)の定義から、通常、高いΦを得ようとする場合、電気双極子(μ)許容遷移を必要とするが、この場合glum値が<10-3程度の小さい値となる。一方、大きなglum値は、磁気双極子(m)許容遷移から10-1程度の大きな強度が得られるが、発光強度は減少する。したがって、高いΦと高いglum値を兼ね備えた材料を実現するために、1)立体構造と光遷移を加味した複雑な分子設計、2)化学修飾・超分子構造形成による光学的性質兼具を可能にする試みがなされている。しかしこれらの手法は化合物限定的なものであり、増幅率も数倍程度しか見込めない。そこでこれらに代わる改善法として3)金属ナノ粒子(NPs)-有機分子hybridによるシグナル増強法を提案している。本課題は、このLSPR-CPL増強の詳細なメカニズムを明らかとし、高感度CPL分析技術の確立を目指す。初年度はLSPR増強メカニズムの基本となるNPsとキラル分子の相互作用の研究を行い、CPL増幅率向上の検討を行った。LSPRと隣接する分子の励起子のカップリングにより蛍光寿命・glumを共に増強できることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
有機色素キラルJ凝集体と単一粒子径NPs(10 nm)が近接して配置された系を構築し、そのキラル分光特性から低量子収率の蛍光シグナルおよびglum値が5~10倍の飛躍的増強が得られた。発光に寄与する吸収はLSPRと励起子が結合した吸収が関与していることが励起スペクトルの測定から示唆された。この増強的相互作用を示す系は、効率的な円偏光発光システムになる可能性を秘めており、NPs構造をより精密に制御することで、キラル光学機能特性の増強作用効率の向上を検証している。NPs粒子の電場増強効果は、NPsと対象キラル物質との空間的配置が変化するようなサイズ、形状、媒質の誘電率および集合体形態に強く依存する。つまりはナノ粒子形状による発光強度および励起子キラリティのマニュピュレーションが可能なことを示唆されている。そこでseed-mediated-photoconversion法を用い、NPs表面保護剤としてクエン酸を加えた球形ナノ粒子のコロイド水溶液に可視光を照射することで、アスペクト比の異なる貴金属ナノ粒子の制御を行った。詳細な構造や複合体形成の有無の知見を得るため走査型プローブ顕微鏡測定で直接観測し確認を行った。
次年度以降は、アスペクト比の異なる貴金属ナノ粒子とキラル分子と相互作用させ量子収率、glum値などの光機能増強を球形ナノ粒子と比較する。NPsやキラルNPs複合体の光学的物性・形態は動的散乱や円二色性およびCPLスペクトルより観測する。初年度で得られたLSPR円偏光蛍光増強メカニズムの光学物性に関する知見を基礎とし、高感度円偏光蛍光分光計測プラットフォームを構築する。最も増強率が高いNPsを分光測定セル基板上にSAM及びLB膜作成法により2Dシート化させる予定である。
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