研究課題/領域番号 |
15K04612
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
磯部 徹彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30212971)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 蛍光体 / ナノシート / 波長変換膜 |
研究実績の概要 |
本研究では、太陽電池の発電効率を改善するために、近紫外光を赤色光に変換し、かつ高い耐光性を有するY2O3:Bi3+,Eu3+蛍光ナノシートからなる透明な波長変換膜を作製することを目的としている。 硝酸イットリウムおよび硝酸ユウロピウムを溶解させた超純水を、硝酸ビスマスを溶解させたエチレングリコールに加えた。その溶液をトリエチルアミンに添加した。次に、超純水を加え、160 ℃で4 hオートクレーブ処理を施した。洗浄後に凍結乾燥した試料を600 ℃で2 h焼成し、Y2O3:Bi3+,Eu3+蛍光ナノシートを得た。このナノシートをポリエチレンイミン(PEI)水溶液に分散させ、硝酸でpH=7に調整した。液中のナノシートはPEIの吸着により正に帯電した。この分散液にITO被覆ガラス基板とステンレス板を10 mmの間隔で平行に保ちながら浸漬した。直流電源で2.5 Vを3 min印加して電気泳動堆積を行った。得られた積層膜にPVPエタノール溶液をスピンコートした。 EPDで作製したナノシート積層膜はUV光(302 nm)を照射すると赤色蛍光を示すが、半透明であった。可視域での透過率は60%以下であった。この膜の表面と断面のSEM像から、基板上にナノシートは約1 μmの厚さで緻密に堆積したが、膜表面に粗さが見られることがわかった。これより、PVP未コートの膜の透過率が低い原因が、膜表面における光散乱であることを突き止めた。そこで、PVPコートにより膜の透明性の改善を検討した。PVPコートによって可視域での透過率は約70%以上に向上した。PVPコート後の膜断面のSEM観察から、ナノシート積層膜の上に表面が平坦で均一な厚さのPVP層が形成したことがわかった。以上のように、PVPコートによって膜表面における光散乱を抑制し、膜の透光性を改善することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶シリコン太陽電池用のY2O3:Bi3+,Eu3+ナノシート波長変換膜は、分光感度の低い近紫外光を分光感度の高い赤色光に変換するだけでなく、分光感度の高い可視光や近赤外光が膜中を損失なく透過するように膜の透明性が求められる。本年度は、Y2O3:Bi3+,Eu3+ナノシートをPEIで修飾して正に帯電させて電気泳動堆積し、さらにPVPをコートすることによって透明な膜を作製できた。このように、太陽電池用の波長変換膜として必須である透明な膜の作製方法を確立することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
諸条件の異なるY2O3:Bi3+,Eu3+ナノシートを作製し、電気泳動堆積とPVPコートによって種々の透明な波長変換膜を作製する。波長変換膜に対して垂直に疑似太陽光を入射したときの照度スペクトルを測定し、近紫外光を赤色光へ変換する効率を算出する。さらに、波長変換膜を単結晶シリコン太陽電池に組み合わせたときの光電変換効率の変化を評価する。以上の実験を通して、Y2O3:Bi3+,Eu3+ナノシートの蛍光量子収率、Y2O3:Bi3+,Eu3+ナノシート波長変換膜の特性と太陽電池の光電変換効率との間の関係などを明らかにする。
|