研究実績の概要 |
単結晶シリコン太陽電池は近紫外光を発電に利用できない。発電効率改善のために、近紫外光を発電に利用できる可視光へ変換する透明な波長変換膜の利用が有効である。そこで本研究では、近紫外光を赤色光に変換するY2O3:Bi3+,Eu3+蛍光ナノシートを堆積させた透明な波長変換膜を作製し、市販の太陽電池に与える影響を評価した。水熱法により合成した水酸化物前駆体ナノシートを焼成することでY2O3:Bi3+,Eu3+蛍光ナノシートを作製した。ポリエチレンイミン修飾により正に帯電させたナノシートの水分散液を調製した。これを用いて、定電圧を印加して透明導電性基板上にナノシートを電気泳動堆積させた。ナノシートは密に堆積し、膜厚は一定であった。作製した膜は見た目に半透明であった。粗い表面や膜中の空隙による光散乱により透光性が低下したと推察される。膜の透光性を改善するため、ポリビニルピロリドン(PVP)による表面コーティングを施したところ、見た目に透明となり、可視域における透過率を70%以上に改善できた。透過率が改善した理由は、PVP膜の屈折率がナノシート膜の屈折率よりも小さいために反射率が低下したことや、PVPコートにより粗いナノシート膜表面が滑らかになり、さらに表面近傍の空隙にPVPが充填されることで光散乱を抑制できたことが考えられる。得られた透明な波長変換膜を市販の単結晶シリコン太陽電池に接着し、AM1.5Gの疑似太陽光下でその特性を測定した。PVPコート後のナノシート膜を用いると、PVPコートをしていない場合よりも短絡電流値が増大し、同時に発電効率も向上した。これは、PVPコートによる可視域の透過率改善や、膜の波長変換効果に起因すると考えられる。
|