研究実績の概要 |
熱電変換デバイスは、p型とn型の半導体の両方の利用が好ましいとされている。しかし、キャリアが電子であるn型の有機半導体は、一般に空気中で酸化されやすく、報告が少ない。そのため、n型で空気や熱に安定な実用的有機熱電変換材料が求められている。我々は、CNT/ヒドラジン誘導体/高分子複合膜を調製し、空気下で安定なn型の薄膜材料の開発を検討した。 CNT とヒドラジン誘導体を、N-methylpyrrolidone 溶媒中で混合し、石英基板にキャストをして薄膜化した。熱電材料の出力因子であるPFは、ゼーベック係数S、導電率σから求められる。ドーピングをしていないCNT膜は、ゼーベック係数が50.9 μV/Kと正の値でp型を示す。これに対して、hydrazine hydrate (HH)を添加するとn型となった。しかし、このCNT/HH複合膜は空気中で不安定で、3日後にn型からp型に変化した。ヒドラジンの効果を持続させるため、各種汎用性高分子とのハイブリッドを行った。その結果、CNT/HH/poly(vinyl chloride) (PVC)は、空気下でゼーベック係数の負の値を16日間維持することが可能となった。これは、PVC の酸素透過率が低いため、HH の脱離を抑制しているものと思われる。さらに、ヒドラジン誘導体を種々変化させて熱電特性の変化を評価した。CNT/1,2-diphenylhydrazine/PVC複合膜は、80℃空気下でも比較的安定的で、ゼーベック係数は一か月間空気下で放置後も、負の値を示した。これは、1,2-diphenylhydrazineの芳香環がπ―π相互作用によりCNTに強く物理吸着しているためと思われる。
|