本研究は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の特性を最大限発現させることのできるデバイス作製に向けた基盤的技術への貢献を目指し、光刺激で吸脱着できるSWCNTの分散剤の高度化と薄膜加工技術への展開をすべく、研究をすすめた。具体的には、特異な界面特性により凝集しやすく、溶液プロセスでは扱いにくいSWCNTの表面特性を、光反応によって構造変化する分散剤によって制御する方法を用いた。従来型の分散剤(界面活性剤や高分子等)が抱える課題(添加量過多、脱着困難等)を解決し、構造最適化した新規光応答性分散剤の創製を検討した。そして、この分散剤を用いて新規SWCNT薄膜加工技術を確立し、SWCNTを利用した電極や薄膜トランジスタ等の応用研究のための基盤的知見を蓄積した。 湿式法で均質大面積に塗布膜を形成する方法として、バーコート法があるが、この方法で塗膜するためには一定の濃度でSWCNTを分散させた溶液(以下、SWCNTインクという)を調整しなくてはならない。これまで、SWCNTの分散性評価のために調製した分散液は、SWCNTの濃度が0.03wt%以下であった。そこで、まずは高濃度化を検討した。種々の分散手法を組み合わせ、0.1、0.2、0.5、0.75、1.00wt%の仕込み濃度でSWCNTインクを調製することができた。そして、SWCNTの濃度に依存して液晶性を示すSWCNTインクがあることを見出した。バルクの液晶性について、偏光顕微鏡により詳細に調べ、このSWCNTインクを物理的にシェアをかけながら製膜すると、SWCNT配向膜が得られることを見出し、光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡によるモルフォロジ観察、偏光紫外可視近赤外吸収スペクトルにより、配向状態を詳細に検討した。
|