結晶内には多様な素励起の分極が存在し、その分極を観察することにより様々な情報を得ることができる。分極の種類としては双極子の他に、四重極子などの多重極子も存在し、最近ではトロイダルな分極に関する研究も盛んに行われている。本研究は複数の光近接場プローブを用い、プローブをスキャンすることにより試料表面の多重極子分極の空間構造を可視化しようという研究である。実験は試料中の素励起を励起する際に素励起のエネルギーと同じエネルギーを持つ波長の光を照射して励起することから遷移は一光子過程であり、平成28年度までに一光子過程によって多重極子が実際に励起可能であるかをプローブを用いずに対物レンズを用いたミクロ光学系で検証を行い、群論を用いて解析を行った。また、本研究では使用する結晶試料として双極子禁制・四重極子許容な励起子を生成する亜酸化銅を用いた。この試料は双極子禁制であることから、双極子の強いバックグラウンドに覆い隠されること無しに四重極子が観察可能な結晶であるが、励起子の共鳴波長が610nmであるため、オプティカルパラメトリックオシレータ(OPO)などの一部の波長可変レーザー以外では生成しにくい光を使用する必要があった。610nmで発振する半導体レーザーはまだ商品化されていないことから、本研究では平成29年度までに1220nmのゲインチップを用い、回折格子と組み合わせることにより波長可変レーザーを製作し、さらにその光を非線形結晶を用いてその第二高調波(SH)に変換するシステムを構築した。さらに測定系としては、低温に於いて原子間力による水晶振動子の振動数変化をAM検出系により計測することでプローブを近接させる、二つの近接場プローブを有する観測系の構築も行った。
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