研究実績の概要 |
平成28年度は、さまざまな結晶子径分布をもつマグネタイトナノ粒子の水性磁性流体の交流磁場における発熱特性(温度プロファイルデータ)に基づいて、発熱量推算法を確立した。まず、Idaらが提案した結晶子径解析モデル(Journal of Applied Crystallography, 36, 2003, 1107-1115)を用い、分布を有する結晶子の集合体において、各結晶子からの回折強度の和で表される理論回折ピーク形状関数を、マグネタイトナノ粒子のX線回折のデータに直接当てはめて結晶子径分布を決定した。次に、Rosensweigの発熱理論(Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 252, 2002, 370-374)を用いたMuraseらのモデル(Radiological Physics and Technology, 4, 2011, 194-202)を、得られた結晶子径分布を考慮して拡張し、マグネタイト磁性流体の発熱量を求める理論式を導いた。これを用いて得られた数値計算結果の妥当性を検討するために、逆沈殿法を用いてさまざまな結晶子径分布を有するマグネタイト水性磁性流体の合成を行い、これらの磁性流体の交流磁場での温度上昇から発熱量の実測値を求め、計算結果との比較を行ったところ、これらはおおむね一致し、本解析法の妥当性が確認できた。さらに、同様の平均結晶子径をもつ場合でも結晶子径分布の広がりによって発熱量が著しく変化することが、実験および計算により示すことができた。以上より、磁性材料の物性や交流磁場の条件から発熱量を予測することが可能となり、磁気ハイパーサーミアの精密な温度制御の可能性を示した。
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