平成27年度では、平均粒子径が8~28nmの、誘導加熱の評価に適したマグネタイトナノ粒子を合成し、粒子群全体の結晶子径を反映する粉末X線回折のデータを用いてこれらの粒子径(結晶子径)分布を決定した。また、これらの試料を用いて水性磁性流体を調製し、交流磁場発生装置を用いてその発熱特性を測定したところ、発熱量は平均結晶子径だけでなく、結晶子径分布の広がりによっても著しく変化することを明らかにした。 平成28年度では、分布を有する結晶子の集合体において、各結晶子からのX線回折強度の和で表される理論回折ピーク形状関数を、試料のX線回折のデータに直接当てはめて結晶子径分布を精度よく決定する手法を確立するとともに、これを誘導加熱による発熱の理論に組み込むことで、試料物性から正確に発熱量を予測する理論式を導き、実験によりその妥当性を示した。さらに、本手法を用いた解析により、磁性材料の物性や交流磁場の条件から発熱量を予測することが可能となり、磁気ハイパーサーミアの精密な温度制御の可能性を示した。 平成29年度では、磁性流体における磁性ナノ粒子の凝集・分散状態が発熱量に及ぼす影響を検討するために、フェライトナノ粒子のゼータ電位のpH依存性を測定し、これに基づいてナノ粒子の凝集・分散状態が異なる磁性流体を調製した。これらの交流磁場における温度プロファイルを測定したところ、ナノ粒子の凝集・分散によって誘導加熱による発熱量が変化することが確認できた。得られた結果に発熱理論を適用して解析したところ、磁性ナノ粒子の発熱機構のうちブラウン緩和がナノ粒子の凝集・分散の影響を強く受けることを示し、凝集体径によって発熱量を推算することができた。 以上より、本研究によって最大の発熱が得られる結晶子径分布と凝集状態をもつ水性磁性流体の設計と、誘導加熱制御に対する理論的な指針を得ることができた。
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