研究課題/領域番号 |
15K04626
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
井上 尚三 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50193587)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多層薄膜 / スパッタリング / 自己伝播発熱反応 |
研究実績の概要 |
Al-Niに代表されるある種の多層薄膜は、外部から微小なエネルギを与えると、発熱を伴った金属間化合物の生成反応が誘起して薄膜全体に伝播していく。我々は、このような多層膜の局所的・瞬間的加熱を癌細胞の温熱治療などの医療分野で応用することを目指し、生体不適合金属を使用しない自己伝播発熱反応材料を開発することを目的としており、主としてTi-Si系多層薄膜に関して調査している。本研究では、Si層の代わりにSiOx層を用いることで、発熱量、反応誘起に必要なエネルギ、反応伝播速度を制御し、用途に応じた材料設計を可能にすることを目指す。 本年度までに、純TiおよびSiOxターゲット(酸素含有量23at%)を用いて種々のTi/SiOx多層薄膜を作製し、各種パラメータが発熱特性におよぼす影響について調査し、Ti/Si多層薄膜との比較検討を行った。一層対厚さを100nm、総膜厚を2μmで一定としてTi:SiOx膜厚比を変化させた試料(多層膜中に含まれるTi-Si組成を基準にしてSI組成が29~75at%の範囲で調査)では、Si組成が37~50at%の場合にのみ自己伝播反応を生じた。この反応可能な組成域は、同じ条件のTi/Si多層薄膜のSi組成38~78at%に比べて極端に狭い。また、これらのTi/SiOx多層薄膜での反応生成物は、膜内のSi組成に依存せずTi5Si3であることもわかった。 さらに、自己伝播反応の生じることが明らかとなったSi組成が37at%と50at%のTi/SiOx多層膜について更に詳細に調査した結果、一層対厚さが厚くなるほど自己伝播反応を生じるために必要な総膜厚が厚くなる傾向が認められた。また、多層膜中のSi組成で比較すると、Si組成が32at%のものの方がより薄い総膜厚で自己伝播反応を生じることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに酸素含有量23at%のSiOxターゲットを用いた実験をほぼ終え、自己伝播発熱反応の生じる組成域をTi/Si多層薄膜の場合と比較することができた。この知見をもとにして、昨年度末に別の組成のSiOxターゲットを購入済みで、既に予備的な実験を開始している。この研究の進度は、ほぼ予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、SiOx中の酸素濃度をこれまでのほぼ半分としたターゲット(酸素含有量13at%)を用いて多層薄膜を作製し、発熱特性におよぼすSiOx層内の酸素濃度の影響の調査に着手する。 1.まず、新しいターゲットを用いて種々の膜厚比のTi/SiOx多層薄膜を作製し、その自己伝播発熱反応の特性を調査していく。それらの結果と昨年度までのTi/SiおよびTi/SiOx多層薄膜と比較から、自己伝播反応におよぼすSiOx層中の酸素濃度の影響について検討する。さらに、各ターゲットを用いて作製した多層薄膜について、一層対厚さや総膜厚が発熱特性におよぼす影響を調査し、自己伝播発熱反応の誘起に対する主たる要因が何かを明らかにしたい。 2. 自己伝播反応のDSCによる熱分析と反応生成物のX線回折による同定,SEM-EDXによる反応生成物の分布状況の評価などを実施し、Ti/SiOx多層薄膜の反応機構について検討を加えていく。
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