研究課題/領域番号 |
15K04630
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝将 福岡大学, 工学部, 教授 (10580178)
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研究分担者 |
柳生 数馬 福岡大学, 工学部, 助教 (90609471)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ表面・界面 / 走査トンネル顕微鏡 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
本研究では、Ge/Si(001)表面上に有機半導体である3,4,9,10 perylene tetracarboxylic dianhydride (PTCDA: C24H8O6)分子を個々に自己組織化させて、1個のPTCDA分子が1ビットに相当する様な超高密度記録媒体の原理実証プロトタイプを試作する。 平成27年度までに、Ge(001)清浄表面上に室温でPTCDA分子を少量吸着させて、その化学吸着構造を走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy: STM)で詳細に調べた。 平成28年度は、そのGe(001)清浄表面上のPTCDA分子吸着の結果を論文にまとめ英文誌に投稿した。また、Ge蒸着装置を製作してSTMの試料処理室に組み込みGe蒸着テストを行った。その際、最初はタングステン・フィラメントにGeを溶かし付けて加熱蒸着する方法を取っていたが、蒸着中にフィラメントが頻繁に断線する問題が生じたので、石英坩堝にGeを入れてその周りにフィラメント巻きつけて加熱蒸着する方式に変更した。 また、イギリスのウォーリック大学とドイツのデュイスブルク・エッセン大学との共同研究で、極低温で超電導になることが報告されているSi(111)-√7×√3-In表面上に、電子受容性の有機半導体である7,7,8,8 tetracyanoquinodimethane (TCNQ: C12H4N4)分子を吸着させて、その化学吸着構造を低温STMで調べた。その結果、吸着後の表面では、TCNQとInから成る金属有機構造体(Metal Organic Frameworks: MOFs)が形成され、その周りで√7×√3構造が5×5構造へと表面構造相転移を起こすことが分かった。これはIn層からMOFs内のTCNQ分子へと電荷移動が起き電荷密度波が誘起されたのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画では、平成28年度にPTCDA分子をGe/Si(001)上に蒸着して吸着構造を調べる予定であった。しかし、平成27年度に福岡大学の学内資金による特別招へい外国人研究者が研究室に滞在して優先的に実験装置を使用したので、Ge/Si(001)表面上での実験より先にGe(001)清浄表面上でのPTCDA分子の吸着構造を調べる実験を行った。その関係で、平成28年度はGe蒸着装置を製作してSTMの試料処理室に組み込みGe/Si(001)表面を作製する実験を行った。 また、今年度は、Si(111)-√7×√3-In表面上のTCNQ分子の化学吸着構造に関する実験もイギリスのウォーリック大学とドイツのデュイスブルク・エッセン大学と共同で行ったので、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策は、概ね研究計画に沿って行う予定である。研究を遂行する上での課題等は、今のところは発生していない。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、STM装置への騒音ノイズを遮断するために300万円程度の防音室を設備備品として購入する予定であった。しかし本科研費の提出締切後に、該当研究室が入居する老朽化した福岡大学工学部4号館の建替えが急遽決定された。その関係で、建替え後に移設困難等の理由で防音室が数年で使用不可になる事態を避けるために、防音室の購入の是非を検討していたので、次年度使用額が生じた。 また、福岡大学から年度をまたいで繰越し不可能な想定外の研究費が別途支給され、そちらを優先的に使用していたことも次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
工学部4号館新棟の仕様・設計がおおむね決まり、新棟での我々の実験室は日常的な防音仕様となる予定になったが、引き続き防音室の購入の是非を金額的に可能かどうかも含めて検討する。もし防音室を購入しない場合には、分子薄膜や金属薄膜を作製するための蒸着装置と膜厚計と抵抗加熱用定電流電源を購入する計画を検討している。
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