研究課題/領域番号 |
15K04631
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研究機関 | 秋田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
桜田 良治 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60290699)
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研究分担者 |
川添 良幸 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (30091672)
鵜澤 正美 日本大学, 生産工学部, 教授 (80571299)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノマイクロ構造解析 / セメントクリンカー / ビーライト / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
省エネルギー型のセメントクリンカー焼成技術開発の鍵となる,ビーライト(β-C2S)の鉱物組成変更による水和活性の向上について,一切の経験値を用いずに量子力学のみに立脚した第一原理計算により解析を行った。計算は,東北大学のスーパーコンピューターを使用して,ビーライト中のCa原子を微量成分(アルカリ土類金属,遷移金属)と置換した結晶構造について,その構造の安定性や,ビーライト結晶表面での水分子吸着に及ぼす微量成分の種類と置換位置,水分子吸着位置について解析を行った。 ビーライト表面近傍の7配位のCa(1)原子を微量成分としてのアルカリ土類金属 (Sr, Ba)で置換した構造について,β-C2S表面のCaOx (x=7,8) 多面体中の7配位(x=7)のCa(1),8配位(x=8)のCa(2)上に1個の水分子を垂直配置して,β-C2Sの水和状態を設定し水分子吸着エネルギーを算出した。Sr原子及びBa原子と置換した構造の水分子の平均吸着エネルギーは置換しない構造よりも小さくなることから,微量成分のアルカリ土類金属のSr原子やBa原子は,ビーライト表面での水分子の吸着力の増大に有効である。8配位のCa(2)原子上に水分子を吸着させた構造は,7配位のCa(1)原子上に水分子を吸着させた構造よりも水分子の吸着エネルギーは小さく,配位数の多いCa原子の方が水分子の吸着力は増す。 また,微量成分のアルカリ土類金属としては,Ba原子の方がSr原子よりもCaとの置換による水分子の吸着エネルギーに及ぼす効果は大きい。本研究成果は,専門雑誌に投稿するとともに,国際会議や国内の学会で研究発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微量成分の添加で化学組成を変更させることによるビーライト単相の水和反応の活性化を図る試みが,セメントクリンカーの焼成温度の低下を可能とする「革新的セメント製造プロセス基盤技術開発」の中で実験的に検討されている。本研究では,ビーライトの化学組成変更による水和活性の特性を,原子レベルで理論的に解析を試みるものである。 今年度は,微量成分であるアルカリ土類金属としてのSr原子及びBa原子を添加して化学組成変更させた,ビーライト表面への水分子吸着に及ぼす水分子の吸着位置の影響について,化学的特性より解析を試みた。解析は,水分子吸着エネルギーに及ぼす微量成分の種類と水分子吸着位置について第一原理計算に基づいて行った。また,複数の微量成分が水和活性に及ぼす影響として,2つのSr原子及び2つのBa原子がビーライトの表面近傍のCa原子と置換した構造について第一原理計算を行った。微量成分として,遷移金属の一部についても,同様の数値計算を進めている。化学的特性からのアプローチは,概ね予定通り研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1.ビーライトの水和反応性の向上に寄与する微量成分の探索(金属,非金属) 第一原理量子論に基づいた数値計算により,微量成分を添加したビーライト界面での水分子吸着機構の原子スケールでの理論解析を行う。計算は,東北大学金属材料研究所の計算材料学センターに設置されているスーパーコンピューターを使用して行う。計算の手順としては,計算機シミュレーションでのビーライトの結晶構造は,ビーライトのスラブ層の上に真空層を設けて,そこに水分子を配置するような単位格子でモデリングを行う。解析では,微量成分としてのアルカリ金属,遷移金属,典型元素での金属,及び典型元素での非金属の各原子が,ビーライトの水和活性向上に寄与する効果について解析を行いその有効性を比較する。 2. 複数の微量成分が関与する場合のビーライトの構造安定性の解析 2.の金属と非金属より選択した微量成分について,その複数の原子が同時に介在する場合のビーライトの結晶構造の安定化と水分子吸着特性について理論的に解析する。特に,微量成分同士の拮抗作用や相乗作用についても理論的に解析を行う。大規模数値計算と結晶構造解析は,海外研究協力者と連携して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究打合せ日数が,所定の期間とれなかったことによる旅費,及び実験項目の一部未実施によるその他経費が,残額となったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度にH28年度に実施できなかった研究打合せを行うとともに,一部未実施の実験項目の実験を実施する予定である。
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