ナノ粒子に薬物を担持した「ナノ薬剤」を血管投与すると、腫瘍選択的に薬物を送達できる。効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を明らかにすることは極めて重要だが、従来の動物実験では薬剤が効く・効かないといった結果論的評価しかできない。本研究ではマイクロ流体デバイスを用い、効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を精密評価することを目的としている。 本年度はまず、細胞培養用マイクロ流体デバイスの作製法を検討した。一般には、フォトリソグラフィーで作製した鋳型をかたどりしてデバイスを作製する。しかし、この鋳型作製法では高価で大掛かりな微細加工装置やクリーンルームを要し、細胞実験を主に行う生化学・生物学分野の研究者が取り組みにくい。そこで本研究では、民生用のレーザー加工機を用いて鋳型を作製することとした。アクリル板を彫刻もしくは切断加工してデバイスの鋳型を作製し、これをポリジメチルシロキサンで型どりしたのちに培養皿に貼りつけ、さらに気泡トラップを取り付けることでデバイスを作製できた。 次に、マイクロ流体デバイスを用いた細胞培養のモデル実験として、HeLa細胞の培養に取り組んだ。マイクロ流路にHeLa細胞の懸濁液を導入し、細胞を流路底部に接着させたのち、培地を送液して灌流培養した。24時間毎に細胞を観察し、細胞密度を測定した。培養開始から120時間で細胞はコンフルエントに達し、細胞増殖速度はマクロ系での実験とほぼ同様であった。この結果から、本研究で作製したマイクロ細胞培養デバイス上で、マクロ系と同様にHeLa細胞を培養できることがわかった。
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