ナノ粒子に薬物を担持した「ナノ薬剤」を血管投与すると、腫瘍選択的に薬物を送達できる。効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を明らかにすることは極めて重要だが、従来の動物実験では薬剤が効く・効かないといった結果論的評価しかできない。本研究ではマイクロ流体デバイスを用い、効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を精密評価することを目的としている。 本年度は前年度に引き続き、細胞培養用マイクロ流体デバイスの作製法を検討した。具体的には、複数種の細胞を培養して疑似薬剤の透過性を評価するために、多孔膜を組み込んだデバイスの作製に取り組んだ。はじめに既報を基にデバイスを作製し、細胞懸濁液をマイクロ流路に導入して培養を試みた。しかし、流路へ細胞を確実に導入・培養できなかった。流路の形状やデバイスへの配管法に原因があると考えられたため、これらを改善したデバイスを作製し、流路内に細胞を確実に導入できるようにした。 次に、上記のデバイスを用いて、腫瘍細胞のモデルとしてHeLa細胞、血管内皮細胞のモデルとしてヒト血管臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養に取り組んだ。マイクロ流路に細胞の懸濁液を導入し、数時間放置したのち、培地を送液して灌流培養した。いずれの細胞を用いた場合も、流路内の膜に細胞が接着している様子が観察された。またHUVECは流れ方向に配向する様子が観察され、疑似血管の構築に成功した。 最後に、上記の2種の細胞の共培養に取り組んだ。HUVECを膜上にコンフルエントに培養した状態で、膜の反対側にHeLa細胞を加えたところ、HUVECの細胞数が減少する様子が観察された。
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