ナノ粒子に薬物を担持した「ナノ薬剤」を血管投与すると、腫瘍選択的に薬物を送達できる。効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を明らかにすることは極めて重要だが、従来の動物実験では薬剤が効く・効かないといった結果論的評価しかできない。本研究ではマイクロ流体デバイスを用い、効率的な送達が可能なナノ薬剤の特性を精密評価することを目的としている。 本年度は、マイクロ流路とウェルが膜越しに重なり合うデバイス上でのナノ粒子透過試験に取り組んだ。ナノ薬剤が腫瘍に薬物を効率的に送達するには、腫瘍近傍の血管において血管外に漏れ出る必要がある。そこで、ナノ薬剤に見立てた市販の蛍光標識ナノ粒子を用い、マイクロ流路内の内皮細胞層に対する透過性を調べることとした。流路にヒト血管臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の懸濁液を導入し、数時間放置して接着させたのち、培地を送液して灌流培養した。懸濁液の導入から24時間後、ウェルにナノ粒子の懸濁液を導入して経時蛍光観察したところ、粒子の透過は認められなかった。すなわち、正常血管壁のようにHUVECがコンフルエントに培養された状態では、ナノ粒子は透過しないことが示された。次に、ウェルに導入するナノ粒子の懸濁液に、ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞を加えて同様の実験を行ったところ、粒子の透過が観察された。すなわち、生体内で腫瘍血管からナノ薬剤が漏出するのと符合するように、デバイス上でも血管内皮細胞の近傍に腫瘍細胞が存在する場合にナノ粒子が透過することが示された。
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