液滴などのマイクロレーザ共振器では、発光体を励起する光が十分に吸収されないことが問題になるので、その解決法として、散乱性媒質中に発光性色素を分散させることを検討した。フレキシブルデバイスに適用できる柔軟性をもつ散乱媒質として、ポリエチレングリコールや液晶に注目した。これらの素材は、相転移を経て散乱状態と透明状態の両方で存在しうるため、発光状態を制御できることも特長である。 分子量が1000以上のポリエチレングリコールは、40~50℃以上では透明な液体であるが、常温では白濁した散乱性固体となるので、有機色素のロダミン6Gを溶かしておくと散乱性の発光体(ランダムレーザ媒質)となる。これを1mm程度のサンプルセルに入れて波長532nmのグリーンレーザパルスで励起すると、570nm付近でレーザ発光(誘導放出)が観測された。温度を上げて液相にすると散乱が無くなるため、弱い自然放出光しか見られなくなった。また、この相転移過程では同じ温度でも昇温時には散乱状態、降温時には透明状態となるヒステリシスが生じるので、レーザ発光を双安定に制御することができた。 希土類元素発光体であるユウロピウムイオンをポリエチレングリコールに溶かし、波長396nmの紫色レーザで励起すると、水に溶かしたときと比べ約80倍も強い発光が見られた。これは、水分子の振動(フォノン)によって発光を阻害されていたイオンが、ポリエチレングリコールによって保護されることで活性化したためと推定される。さらに、このイオン溶液を固化させると、散乱によって励起光吸収が増強されて発光が2倍程度強くなった。 以上のように、本研究では散乱性固体へと相転移する液体材料をマトリクス(母材)として発光体を作製することを提案し、制御性と柔軟性をもつ微小なレーザを構成するのに有効であることを実証した。
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