研究課題/領域番号 |
15K04648
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
酒井 政道 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40192588)
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研究分担者 |
長谷川 繁彦 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50189528)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / バイポーラ伝導 / 水素吸蔵体YH2 / 電荷蓄積 / スピン蓄積 / 電流スピン偏極 / 異常ホール効果 |
研究実績の概要 |
近似的にゼロとみなせるホール係数を有する両極伝導性物質群(RH2, R=希土類元素, H=水素)をスピントロニクス材料に応用する研究である。アップ/ダウンのスピン自由度に、正孔/電子の電荷自由度を加えることによって、スピン蓄積機能と電荷蓄積機能の両者を一体化し、トータル4種類のスピン・電荷蓄積モードを創出することを目指している。27年度の目標は、希土類遷移金属合金TbFeCoをソース及びドレイン電極に用いて、YH2を伝導チャネルとするホール素子を製作し、YH2チャネル中の電流スピン偏極度を10%以上にすることであった。 ホール素子はフォトリソグラフィ―及び電子ビーム蒸着法で作製した。Siウェハ上にSiO2をスパッタ法で成膜し、下地にCrを、電極にTbFeCo (組成比Tb:Fe:Fe=26:66:8)を、チャネル下地にTiを、チャネル部にYを、保護膜としてPdをそれぞれ電子ビーム法によって蒸着した。その後、室温下で3 %水素雰囲気と反応させ、YH2チャネル層(チャネル長約10μm)を形成した。ホール抵抗及び横磁気抵抗の測定は、室温にて、磁場を膜面に対して垂直に印加した状態で、直流ないし交流電流をチャネル部に供給し、電流方向と交差する電極間の電位差を測定した。 ヒステリシスを伴う異常ホール効果が観測された。異常ホール係数は負値であり、5 Tの磁場下におけるホール抵抗値は-1.2×10-9 Ωmである。TeFeCo電極からYH2チャネルへのスピン注入効果を評価するために、スピン注入によって生じるアップ スピンとダウンスピンの電気化学ポテンシャル分裂を考慮して異常ホール効果を2流体モデルによって計算した。計算値と測定値とを比較することによってYH2チャネル中の電流スピン偏極度として約18%が見積もられた。また、スピン軌道相互作用強さの磁場換算値として約340 Tが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画調書によると第1年目(27年度)の目標は、希土類遷移金属合金TbFeCoをソース及びドレイン電極にして、希土類水素化物YH2を伝導チャネルとするホール素子を製作し、YH2チャネル中のスピン偏極度を10%以上にすることであった。10μmのチャネル長のホール素子に対して、ソース・ドレイン電極磁化が平行配置の下、スキュー散乱型のスピン軌道相互作用を利用することによって、電荷蓄積が伴わず、スピン蓄積だけが発生するモードを観測することが出来、上記の概要で記述したように、電流スピン偏極度として、現在までのところ、約18%が得られている。この値は、目標値(10%)の約2倍である。したがって、おおむね順調に進展していると云える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画調書のとおり、第2年目(28年度)は、ソース・ドレイン電極の磁化配置を反平行にして、電荷蓄積とスピン蓄積の両方が同時発生するモードを観測する。伝導チャネル中の電流スピン偏極度は27年度と同様に、ホール抵抗及び磁気抵抗測定にもとづいて評価する。正孔スピンと電子スピンが反平行になるため、スピン蓄積のみならず、電荷蓄積が発生し、電流スピン偏極度に応じた比較的大きなホール抵抗が期待される。 ソース・ドレイン電極の反平行着磁方法は以下のとおりである。TeFeCoのキューリー点(Tc)が約200℃であることを利用し、(1)2つのTeFeCo電極を面直方向、同一向き(平行配置)に着磁、(2)保磁力(約50 mT)以下の外部磁場を最初の着磁方向に対して逆向きに印加、(3)レーザー光(波長407 nm、照射パワー密度約6×1010 W/m2)を片方のTeFeCo電極に照射掃引加熱して温度をTc以上にする、(4)室温に自然冷却後、(5)加熱前後の極Kerr効果顕微鏡画像を差分処理することによって、反平行着磁の可否を判定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度当初、研究分担者に30万円の分担金を配分したが、27年度は、研究分担者の保有する結晶成長および評価装置が順調に稼働し、当初予定していた消耗物品を交換をせずに実験が遂行できた為である。
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次年度使用額の使用計画 |
主に次の3点に対して予算を使用する。 (1)主に研究代表者が、ホール効果測定に使用している超伝導マグネットのこれまでの使用時間を鑑みるに、28年度は、定期点検費用とそれに伴う消耗物品交換費用が発生すると見込まれる。(2)主に研究分担者が使用する結晶成長・評価装置に対して、28年度には、複数の消耗物品の交換費用が見込まれる。(3)研究代表者と研究分担者間の共同実験や研究打合せのために、埼玉大学-大阪大学間の出張旅費が昨年に引き続き必要である。
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