研究課題/領域番号 |
15K04652
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
沖村 邦雄 東海大学, 工学部, 教授 (00194473)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 二酸化バナジウム薄膜 / 絶縁体-金属転移 / しきい値スイッチング / 相転移現象 / 自励発振現象 / 積層構造素子 |
研究実績の概要 |
平成27年度は前年度の研究準備段階を経て,TiN導電層上に堆積したVO2薄膜に対してTiNを下部電極としてVO2薄膜上のプローバーを上部電極とする積層型素子を形成し,面直方向への電圧印加スイッチング特性を調べた.その結果,250℃程度の低温でVO2薄膜を堆積することで0.55 V, 22μA程度の低い電圧,電流での抵抗スイッチングを実現した.このような抵抗スイッチングが生じるとき,本素子に直列抵抗を接続し,直流電圧を印加することで,スイッチング前の高抵抗状態とスイッチング後の低抵抗状態が交互に繰り返される自励発振現象を実現した.従来,VO2薄膜上面に設置した一対の金属電極間で生じる自励発振は数百kHzオーダーの周波数であったのに対して,本素子ではMHzオーダーの発振が得られた.即ち,発振時の時定数は1μs以下である.発振測定回路中の直列抵抗と電源電圧依存性を調べた後に,上部電極であるプローバーの直径を変化させたところ,直径が小さくなると共に発振周波数が上昇し,2.5 MHzの周波数を得た.更に,プローブ接触圧のコントロールによってVO2/TiN/Si三相構造素子において9.1 MHzの最高発振周波数を実現するに至った.これらMHzオーダーの発振周波数はVO2を用いた2端子素子の発振現象の報告例の中では最も高い値である.このように速い発振はVO2の膜厚が電極間距離に相当する積層型素子の特性を示すものである.即ち,電極間距離がプレーナー型の数μmに対して本積層型素子では0.2~0.5μm程度と狭くできる事と,接触面積が小さいプローバーを上部電極として用いることで静電容量成分を小さくできることから,高抵抗状態と低抵抗状態間の遷移速度を大幅に短縮できたものと考えられる.今年度に得られた成果は本研究で提案した相転移VO2薄膜を動作層とする積層型素子の低電圧抵抗スイッチングに基づくものであり,本素子の高速スイッチング素子への応用へ向けた大きな成果と位置づけられるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では相転移VO2薄膜を導電層上へ堆積することが第一の課題であり,そのために誘導結合プラズマ支援方式のスパッタ成膜法を適用することで250℃程度の低温において導電層であるTiやTiN層の拡散や酸化を抑制しながら結晶質VO2薄膜を堆積することに成功した.この成果によって相転移VO2の電圧印加抵抗スイッチング現象の発現に求められるVO2薄膜と導電層の明瞭な界面を形成することができ,低電圧,低電流での抵抗スイッチングの実現,更には自励発振の実現に至ったものである.抵抗スイッチングの電圧としてプレーナー型では報告例のない低電圧である0.55 Vを達成したが,この値は膜厚に対するスケーリングから判断するとやや高い値である.この結果は,低温成長による良好な界面の形成と急峻な転移を有するVO2結晶成長の両立が難しい課題であることを示すものであり,今後更に成膜条件の最適化を進める必要があるものと考えている.一方,発振周波数は目標としたMHzオーダーを達成した.このような高周波発振の要因は,VO2層の厚さが薄いことに加えて,上部電極としてプローバーを用いたことで電極面積を小さく抑制できた事に起因するものと考えられる.VO2薄膜自身を微細加工することなく,点接触型の構造とすることで静電容量を小さく抑えることができ,高周波発振が得られたものと考えている.このように積層型素子の形成と低電圧における抵抗スイッチング及び自励発振の実現に成功したことから本研究初年度の目標はほぼ達成されたと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の取り組みによって積層型素子の形成,抵抗スイッチング及び自励発振現象の実現を達成したが,スイッチングのしきい値電圧はスケーリングから考えると未だ高いものであった.この結果は,低温成長による良好な界面の維持と急峻な転移を有するVO2結晶成長の両立が更なる課題であることを示した.したがって,平成28年度は拡散防止相であるTiNの膜質向上と誘導結合支援反応性スパッタ成膜の条件最適化によって,より低電圧での抵抗スイッチングの実現を達成する必要がある.当初の研究計画書に示した0.2 V程度のスイッチング電圧を実現することで,本積層型素子の更なる特長の発揮と安定した高周波発振の実現ができるものと考えている. また,TiN導電層の導入によって400℃という比較的高温下でVO2結晶が成長した成果はスパッタ法以外の結晶成長方法であるPLD法などを適用できる可能性を示したことから,TiN層上へPLD法によってより優れたVO2薄膜を成長させることに取り組む予定である.VO2薄膜の結晶性向上によってより本質的なVO2の絶縁体-金属転移特性に基づく発振現象が得られると期待できる.本研究で作成している多結晶ではなく,配向成長や単結晶薄膜を得ることができれば,スイッチング特性や発振特性に大きなブレークスルーが現れる可能性がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した全額をほぼ使用した.残額の3278円は物品購入に伴う端数である.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費として使用する.
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