研究最終年度となる平成29年度は,前年度に得られた(111)配向TiN結晶層上に成長させたVO2薄膜において,低電圧でのスイッチング及びプローバー探針圧調整によって10 MHzの高周波発振が得られた成果を基に,更なる進展を目指した. まず,配向TiN(111)上へ平成28年度よりも低温の250℃で成長させたVO2薄膜では,VO2/TiNの界面が非常に急峻であり相互拡散が生じていないことが判明した.このVO2/TiN/Ti/Si積層素子に対して電圧印加スイッチング現象を調べ,次に発振特性を調べた.その結果,1.6 Vの低電圧においてVO2薄膜の絶縁体-金属転移(Insulator-Metal Transition: IMT)に伴うしきい値スイッチングが生じた.また,導電性TiN層上とVO2薄膜上にプローバー探針を当てて直流電圧を印加することで発振現象を発現させた.VO2薄膜上のプローバー探針圧を5~150 MPaと変化させた結果,5 MPaでは9 MHzの発振周波数であるのに対して,60 MPa時には15 MHzの世界最高発振周波数を得た.更にプローバー圧を増加させると周波数は1.4 MHzと低下した.この時の発振波形は静電容量を含む回路の充電特性を反映しており,VO2薄膜における従来型の発振であった.以上の結果より,VO2側のプローバー圧が高い時は温度上昇に伴うIMTループ内で発振が生じ,絶縁相における電荷蓄積時間が発振を律速するのに対して,プローバー圧を弱めに調整すると金属的な状態に近い2状態間で発振が生じることが示唆された.VO2の構造転移において金属状態に近い中間状態の存在が報告されており,本発振モードは中間状態を経由している可能性がある.中間状態を経由する発振は構造転移を伴わないため,構造安定な発振素子の実現にとって重要な成果を得たと考えられる.
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