本研究の目的は希土類-遷移金属垂直磁化膜について、スピン、軌道、元素別に磁化反転現象を観測し、ミクロスコピックに磁化反転機構を解明することである。希土類-遷移金属垂直磁化膜は磁気記録材料の母物質として知られる物質であり、その磁化反転機構を明らかにすることは応用上も重要な課題と考えられる。特に、磁気記録材料として実用に近い角型比の高い希土類-遷移金属垂直磁化膜における磁化反転の前駆現象が、スピン、軌道、元素別の状態のどこに現れるかを詳細に観察し、高密度記録の高速書き込み読み出しの基礎となるミクロスコピックな磁化反転機構を考察した。スピン、軌道、元素別のミクロスコピックな測定には磁気コンプトン散乱及び磁気円二色性吸収の印加磁場依存性を利用した。 試料は磁気補償組成近傍のTbxCo100-x(13<x<25)を薄膜を用いた。TbとCoのそれぞれの磁気モーメントはフェリ的になっており、磁気構造はスペリ磁性と呼ばれる。 H29年度は、これまでにおこなっているスピン選択、軌道選択、元素選択、磁化曲線測定の結果を、磁気円二色性吸収測定の総和則から算出して結果との比較を試みた。また、Tbの磁気モーメントはスペリ磁性のなかでゆらぎ広がっている。このゆらぎを温度によって抑え、垂直磁化に対する実効的な時期モーメントが大きくなるように制御することで、仮想的に組成を変えた測定を行い磁化反転機構を考察した。 特に、本年度は最終年度であることから、これまでに測定を行った組成比の異なる試料の測定結果の比較検討に重点を置いた。これらの結果を日本物理学会、磁気学会などで報告した。
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