研究課題/領域番号 |
15K04665
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
阿部 友紀 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20294340)
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研究分担者 |
市野 邦男 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90263483)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 紫外アバランシェフォトダイオード / 有機-無機ハイブリッド構造 / ZnSe |
研究実績の概要 |
近年,紫外線変換型の高速シンチレータと紫外アバランシェフォトダイオード(APD)を用いることで,高速PETシステムが実現可能になると期待されている。そこで本研究では,従来の光電子増倍管を紫外線光波帯APDに置き換えて高速・高精細PETシステムに導入するために図のような集積型APDの開発を目指す。 本研究では,ZnSe系有機-無機ハイブリッド型APDを用いることで,感度および暗電流などの課題を打破して,紫外線領域で初めて集積型APDを実現し,医療分野のみならず天文計測,科学計測,次世代光ディスク用などの学術の芽・産業の芽となる応用分野の開拓を目指すことを目的とする。 具体的には,窓層である紫外透明導電膜PEDOT:PSSをインクジェット法により形成することにより,低暗電流化と集積化を実現し,ポリイミドパッシベーション膜を用いることにより長寿命化を実現する。 本研究による紫外集積型APDが実用化されれば,高速ラインスキャンが可能な1次元APDアレイ,微弱紫外光撮像デバイス等の実現が期待される。これらの集積化APDデバイスは,医療分野のみならず天文分野,科学計測分野,次世代光ディスク,火炎センサー,ミサイル追尾など多様な分野にわたり貢献できるものと考えられる。 H28年度は,活性層の増大による増倍率の向上,真空雰囲気による高増倍領域でのAPDの劣化対策,およびフォトリソグラフィープロセスの導入を行った。増倍率は従来の素子の100倍から280倍に増加した。99.99%の窒素雰囲気中ではAPDモードで1μA以上素子に電流を流す高増倍領域では,駆動時間とともに電流が減少していくという劣化があったが,真空中ではこのAPDモードによる劣化は10μAまで観測されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は活性層膜厚を増加させることで,増倍率の向上を図った。理論上従来から1桁の増倍率向上となる1000倍を狙って,活性層は従来の0.3μmから0.45μmとした。その結果,動作電圧は従来の30Vから40Vに増加したものの,増倍率は従来の約100倍から280倍まで向上した。増倍率が目標の1000倍に達しなかったのは,暗電流が大きいことが原因であると考えられ,今後素子作成プロセスの改善によって十分改善可能なものであると考えられる。 また,APDの高増倍領域(約1μA)を使用するにあたり,連続動作で電流が低下するという劣化が生じることが分かった。これは,高増倍領域のAPDモードで電流を流した時のみに生じ,PINフォトダイオードモードで光電流を流した時や,順方向電流を流した時には生じない劣化である。したがって,高速に加速されたホールがPEDOT:PSS層に注入された結果,劣化を引き起こしていると考えられた。そこで,従来の窒素雰囲気(99.99%)から超高真空(10-8Torr)中に素子を置くことで,劣化試験を行った。その結果,真空中では上述したAPDモードによる劣化は10μAまで観測されなかった。今後,実用化するにあたり真空封止または,高純度の不活性ガス封止による劣化対策が不可欠であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は,フォトリソグラフィでレジストパターンを形成した後,スピンコート法でPEDOT:PSSを塗布し,ベイクをした後,アセトンによるリフトオフを行った。アセトンでリフトオフを行った素子を光学顕微鏡で観察したところ,端部に一部残留部分や削れが見られるが,ほぼマスクパターン通りのパターニングが出来ていることが分かった。しかし,実際にデバイス化したところ,急激なリーク電流の増加が見られた。これは,現像後に行うリンスが不十分で界面に現像液が残留している可能性が考えられたため,現像後のリンスプロセスを改善したところ,暗電流特性が大きく改善した。しかし,インクジェット法で作製した素子と比較すると,暗電流が一桁増加していることが分かる。この原因としては,アセトンに浸したことによるPEDOT:PSSの劣化などが考えられる。 以上の結果を踏まえてH29年度は,フォトリソグラフィーによるAPDアレイの作製を目指す。H28年度までは,リフトオフによるPEDOT:PSS窓層の形成を中心にAPDの開発を進めてきたが,インクジェット法によるAPDの特性に一歩及ばなかった。そこで,今年度はリフトオフを用いずに,エッチングによりPEDOT:PSS窓層の分離を行い,APDアレイの実現を目指す。具体的には,SU-8でパターニングをした後,PEDOT:PSSを全面塗布しフォトレジストによりマスクをしたのちにPEDOT:PSSをエッチングによって取り除き,窓層のアレイを形成する。本技術が確立されれば,単純なAPDアレイの形成のみならず,将来的にはMPPC(Multi-Pixel Photon Counter)などに応用できる。
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