研究課題/領域番号 |
15K04667
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
秋本 晃一 日本女子大学, 理学部, 教授 (40262852)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 化合物半導体 / X線回折 / 結晶工学 / メゾスコピック / 窒化ガリウム / シンクロトロン放射光 / 格子ひずみ |
研究実績の概要 |
省電力技術と地球環境問題への貢献において大いに期待されるワイドギャップ半導体であるGaNは、光デバイスばかりでなく電子デバイスとしての期待も大きい。しかし、電子デバイスへの応用に際しては、さらなる結晶欠陥の低減が必要とされている。さらに欠陥の種類や数の同定だけでなく、欠陥周辺の広い範囲での微小なひずみ場の測定も求められている。本研究では、微小に傾いたμmオーダーのメゾスコピックなスケールの結晶グレインの解明および制御がGaN結晶のさらなる結晶性の向上の鍵をにぎると考え、その詳細を明らかにすることを目的とする。また、GaN結晶の表面再構成構造の解明が表面近傍のひずみとともに、その後の基板上の薄膜成長に大きな影響を与えると考え、その関係を明らかにすることも目的としている。 高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設のシンクロトロン放射光を利用し、X線トポグラフの撮影にCCDカメラを用いて、トポグラフ像を詳細に解析することにより、m面及びc面のGaN結晶についてμmオーダーでの結晶面の傾きのずれ(⊿θ)と結晶の面間隔の伸縮(⊿d)を分離し画像として可視化した。 本年度は、結晶面の傾きのずれ(⊿θ)と結晶の面間隔の伸縮(⊿d)の画像のほかに、回折強度曲線の半値幅を、結晶の各点について、強度を画像から抽出することにより求め、画像として再び表示することに成功した。これまで得られている2つの画像とあわせて、今後、欠陥の詳細を明らかにできることが期待される。 また、本年度は新たに超高真空装置を立ち上げ、加熱中に試料から放出される気体の種類を四重極型質量分析計で解析する実験を開始した。昨年度までの反射高速電子線を用いた実験で示唆された構造変化について、本年度は、室温での表面構造を詳細に解析するために、シンクロトロン放射光を用いたX線CTR散乱の測定を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シンクロトロン放射光を用いたX線トポグラフィーの手法でメゾスコッピクなスケールで結晶面の傾きのずれ(Δθ)と面間隔の伸縮(Δd/d)を分離し測定する実験については順調に行うことができた。また、回折強度曲線の半値幅を、結晶の各点について回折強度を画像から抽出することにより求め、再構成して画像として表示することに成功した。これらの3つの画像から結晶欠陥の詳細が解析できるようになった。また狭い領域の画像を合成することにより、広い面積の変化を観察するため解析方法を明らかにした。 反射高速電子回折法(RHEED)による表面再構成構造解析に関する研究については、構造変化の試料作製方法依存性を明らかにした。また、加熱中に試料から放出される気体の種類を四重極型質量分析計で解析した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた結果を基にして、GaN結晶の表面近傍のひずみに関する研究を行う。GaN結晶の表面近傍のひずみはその後の結晶成長に大きな影響を与え、デバイス特性にも影響を与える可能性がある。本研究では、結晶の研磨や表面処理に着目し、表面近傍のひずみや凹凸を測定する方法の一つであるX線CTR散乱法により研究を行う。また、極端に非対称なX線回折の実験も行う。極端に非対称なX線回折の光学系では、用いるX線の波長を変えることにより、結晶への侵入深さを自由に制御できる。各種の研磨条件あるいは表面処理条件による表面近傍のひずみの違いを深さを特定して定量化する。定量化には動力学的回折理論を必要とするが、動力学的回折理論に基づく計算についての研究を開始し、最適な実験条件を明らかにし、実験を行う。 また、X線トポグラフィー法による結晶グレインに関する研究も前年度に引き続き行い、X線CTR散乱法や極端に非対称なX線回折法の実験結果と照らし合わせ検討する。 表面近傍の構造について前年度に引き続き、表面再構成構造に着目し、反射高速電子線を用いて研究を行う。またさまざまな製法で作製された試料について、加熱中に試料から放出される気体の種類を四重極型質量分析計で解析する実験を本格的に行う。特に構造を詳細に研究するために、構造の違いによる回折強度の計算を電子線及びX線の場合について精密に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではX線トポグラフの実験の一部は高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設のビームライン14Bを共同利用して実施している。ビームライン14Bは超伝導ウィグラーを用いて縦偏光を実現する特殊なビームラインである。しかし、経年劣化のためこの超伝導ウィグラーが真空悪化のため修理が必要となり、2016年度の途中から、ビームライン14全体が長期閉鎖となった。そこで本研究では、トポグラフの実験のうち、高分解能の実験を行うことができなくなり、その分の旅費が本年度は使用されず、次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度後期から始まったX線CTR散乱の実験の実験を次年度本格的に行うために必要な旅費として使用する。これまでの研究で、Ga原子が表面構造の安定化に寄与しているとの結果も報告されている。そこで、2017年度より超高真空中で表面上にGa原子を吸着させる実験を行う実験も企画している。そのための蒸着源の整備にも研究費を使用する。また、研究の最終年度でもあり、日本物理学会や応用物理学会での研究発表の旅費にも研究費を使用する予定である。
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