研究課題/領域番号 |
15K04674
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 進 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (20401234)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機半導体 / グラフォエピタキシー / 分子動力学シミュレーション / 面内配向 / セクシチオフェン / ペンタセン |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、有機グラフォエピタキシーの分子レベルでのメカニズムを解明するため、分子動力学(MD)シミュレーションを主ツールとして研究を進めた。本研究課題の初年度であった昨年度は、溝のある基板形状や基板表面修飾(ヒドロキシ基やトリメチルシロキシ基)のモデル化を行い、その基板上に有機半導体セクシチオフェン(6T; C24H16S6)分子を配置した予察的MDシミュレーションを実行、ヘリンボーン分子配列を特徴とする6Tの結晶構造再現に成功した。本年度は、最初の課題として、実験で観測されている基板表面状態の違い(表面修飾の違い)による6Tの面内配向方位変化の原因解明に集中した。多くのMDシミュレーションを行った結果、溝エッジの方向とセクシチオフェン結晶のc軸のなす角が0°、約45°、90°の3方位が、親水性基板と疎水性基板の双方において同程度に安定であり、実験で見られる面内方位の変化は、表面修飾の違いよりもむしろ、溝エッジ近傍で核形成が開始する際の初期分子配列に依存していることが示唆された。すなわち、面内配向方位の変化は、分子が基板に吸着し、拡散を経て溝エッジで核形成をする、分子の堆積過程まで含めて総合的に考察すべき問題であることがわかった。この結果を受け、年度の後半は、分子の堆積過程のシミュレーションに集中した。6T分子はチオフェン五員環が単結合で連なった鎖状構造をもち、分子が曲がりやすく、核形成、結晶成長過程のシミュレーションには適さないことがわかり、曲がりにくい分子骨格をもつペンタセン(C22H14)を対象分子とすることにした。ペンタセンは分子堆積過程のMDシミュレーションにおいて自発的にヘリンボーン分子配列をもったクラスターを形成し、その一部は、溝のエッジ近傍で、実験と調和的なグラフォエピタキシャル成長の徴候を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の達成目標は、(1)基板表面状態の違い(表面修飾官能基の違い)によるセクシチオフェン(6T)の面内配向方位変化のMDシミュレーションを用いた原因解明、(2)分子の吸着、移動、集団化、核形成、結晶成長の全動的過程をシミュレーションするための技術基盤構築、の2つであった。(1)に関しては、多くのシミュレーションの結果、表面修飾の違いよりもむしろ、溝エッジ近傍で核形成が開始する際の初期分子配列に依存していることが示唆され、分子の堆積過程のシミュレーション、 すなわち(2)の研究に必然的に注力することとなった。(2)のシミュレーションは6T分子では難しいことが判明し、対象分子をペンタセンに変えることで目的とするシミュレーションが可能となってきた。このように、いくつかの問題が発生しつつも、解決策を見出しながら結果を出すに至っており、現在までの進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」が適当である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、セクシチオフェン(6T)をMDシミュレーションの対象分子として進めてきたが、堆積過程のシミュレーションに関してはペンタセン分子の方が扱いやすいことがわかった。グラフォエピタキシー現象の理解には、分子の吸着、移動、集団化、核形成、結晶成長の全過程をシミュレーションする必要があり、課題最終年度となる次年度は、ペンタセンを用いてより詳細なシミュレーションを行い、有機グラフォエピタキシーの分子レベルでのメカニズムを総合的に理解する予定である。
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