研究課題/領域番号 |
15K04681
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
野平 博司 東京都市大学, 工学部, 教授 (30241110)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ダイヤモンド / 光電子分光法 / 価電子帯 / C1s光電子スペクトル |
研究実績の概要 |
(独)産業技術総合研究所の山崎聡(連携研究者)のグループの作製したダイヤモンド試料(試料サイズ2mm角~3mm角)を検出深さの大きな硬X線光電子分光法(高輝度放射光施設SPring-8、BL47XU、励起光のエネルギー7940eV)を用いて測定した。試料は、BまたはPをドープしたものである。測定光電子は、内殻軌道(C1s)および価電子帯である。以上の測定から、得られた結果を列挙する。 1. C 1s光電子スペクトル:ホウ素濃度10^21[1/cm3]においては、硬X線光電子分光では、2つのピーク(高結合エネルギー側の方がピーク幅が大きい)が観測された。軟X線光電子分光測定においては、明瞭に2つにわかれて観測されず、かつ高結合エネルギー側のピーク強度が大きかったことから、高結合エネルギー側のピーク幅の大きい成分が表面近傍からの信号と考えられる。これらのことは、ダイヤモンド表面近傍(軟X線光電子分光法の検出深さ程度)のバンドが曲がっていることを示唆している。詳細は、今後検討を行う予定である。一方、リンを高濃度にドーピングした試料においては、硬X線の検出深さ程度までバンドが曲がっていることを示唆する結果であった。 2. 価電子帯スペクトル:不純物によって、フェルミレベルが変化することが観測された。また、フェルミレベルの変化により、内殻準位C 1sの結合エネルギーが変化することも確認できた。傾向は前年度と同じである。 平成28年度は、検出深さの大きな硬X線光電子分光法により表面の影響の少ないバルク由来の光電子スペクトルの知見を得た。これは、各種表面処理による影響の評価においてリファレンスとなるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光電子分光装置(ESCA-300)の故障(H27とは別の箇所)がありすこし遅れているが、既に修理も終わり、挽回可能である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更はない。以下の研究計画に基づきすすめることで、ダイヤモンド表面の終端構造や不純物と電子状態・電気的特性との関連性を明らかにする。平成28年度までに、ダイヤモンドの光電子分光測定の基礎的なデータの収集が行えたので、平成29年度は、表面処理によるダイヤモンドの表面の化学結合状態の変化、および表面近傍の電子状態の変化を調べる。具体的には以下のように研究を進める。 前年度までに確立させた手法を用いて、ダイヤモンド試料(一部試料は、不純物を導入)を準備する。次に、超高感度・高分解能X線光電子分光分析装置ESCA-300を用いて、真空槽内で、原子状水素、分子状酸素、原子状酸素などに暴露させ、大気に晒さずにESCA-300の測定に移動しダイヤモンドの表面の化学結合状態や価電子帯構造、不純物が価電子帯構造に及ぼす影響を調べる。また、表面形状や電気的評価を行う。これらの結果を基に、特に電気的評価と化学結合状態との関連に注目して、比較検討を進める。 以上により、ダイヤモンドの終端状態(化学結合状態)や不純物と電子状態・電気的特性との関連性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ESCA-300の故障により実験計画に遅れが生じ、窒素ガス等の消耗品の購入を見送ったために生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度前半に、窒素ガス等の実験に必要な消耗品を購入する予定である。
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