研究課題/領域番号 |
15K04682
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
星 陽一 東京工芸大学, 工学部, 名誉教授 (20108228)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化チタン膜 / 高速スパッタ堆積 / 酸素ラジカル源 / 酸化処理 / 光触媒 / 低ダメージスパッタ法 / 酸化タングステン膜 |
研究実績の概要 |
我々は金属Ti原子を供給する蒸着源やスパッタ源と酸素ラジカル源を組み合わせた斜め入射堆積法を利用して、ポーラスで表面積の大きい膜を実現することで、良好な光触媒特性を持つ膜が得られることを示してきた。さらに、斜め入射堆積法により作製した、ポーラスで表面積の大きな金属Ti膜を酸素雰囲気中または酸素ラジカル源を利用して低温で酸化処理する方法によっても、容易にルチル型の酸化Ti膜が得られることを見出してきた。 最終年度にあたる今年度は、可視光光触媒材料やガスクロミック特性を示すために注目されている酸化タングステン膜の高速スパッタ成膜法の開発にも取り組んだ。その結果、500V以下の電圧でスパッタする通常のマグネトロンスパッタ成膜法では、堆積速度が極めて遅いこと、さらに、酸素負イオンによる基板衝撃下で膜が堆積するため、良好なガスクロミック特性を示す膜を得ることは困難であることを明らかにした。この問題を克服するため、成膜中に高エネルギー酸素負イオンが基板に入射しない対向ターゲット式低ダメージスパッタ法を用いて700V以上の高電圧領域、20mTorr以上の高ガス圧領域でスパッタ堆積することで、容易に100nm/min以上の高堆積速度で、かつ良好なガスクロミック特性を示すWO3膜の作製が可能なことを確認できた。 さらにこの低ダメージ対向ターゲット式スパッタ法を有機EL素子の上部電極膜の作製に利用することで、下地有機層にダメージを与えること無しに成膜が可能なで、良好な発光特性を示す有機EL素子の作製が可能であることを示すことができた。 以上の結果は、本研究で開発した対向ターゲット式低ダメージスパッタ法が、有機EL素子などの有機デバイス用の各種薄膜、特に酸化物材料の薄膜作製に有効な方法であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終年度は、金属Ti膜の低温熱酸化法により、アナターゼ形酸化チタン膜を実現する方法を検討すること、酸化タングステン膜の高速堆積法の開発を目指した研究に取り組んだ。その結果、金属チタン膜を熱酸化する方法では、ルチル形の酸化チタン膜が形成され、アナターゼ形酸化チタン膜を得る方法を見出すことはできなかった。(酸化した膜を熱処理する方法でアナターゼ膜を得ることが可能) 酸化タングステン膜の高速成膜法の開発では、500V以下のスパッタ電圧では、酸素原子しかスパッタ放出されないため、極めて小さな堆積速度でしか膜を作製することができないが、700V以上の高電圧でスパッタすることで、容易に100nm/min以上の高堆積速度で成膜できることを見出した。さらに、スパッタ時にターゲット陰極から放出される酸素負イオンの基板衝撃が存在すると膜のクロミック特性は損なわれてしまうため、酸素負イオンの衝撃が起こらないスパッタ法(本研究では対向ターゲット式スパッタ法を採用)を用いることが有効であることを明らかにすることができた。 対向ターゲット式低ダメージスパッタ法は、負イオンのみならず、高エネルギー2次電子の基板への入射を抑制することができるため、有機EL素子などの素子の作製に必要な、有機材料の上に電極膜を作製する方法としても有効であることを明らかにすることができた。 以上のことから、おおむね順調に研究を推進することができ、有益な研究成果を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、高性能光触媒酸化チタン薄膜作製法を開発することを目指した。その過程で、斜め入射スパッタ堆積法の有効性や、スパッタ形酸素ラジカル源の開発、有機EL素子の上部電極作製用の対向ターゲット式低ダメージスパッタ法の開発、酸化タングステン膜の高速堆積法の開発など、様々な成膜方法を開発することができた。これら、本研究において生み出された成膜方法は光触媒材料のみならず、様々な機能性材料の薄膜化に利用できる方法である。特に酸化物薄膜材料の作製に有効な方法であることから、今後は太陽電池、有機EL素子などに必要不可欠な各種酸化物薄膜の作製方法として有効であることを示す研究を継続して行きたいと考えている。 さらに、得られた研究成果を論文として発表する作業を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の最終年度で得られた新しい研究成果(酸化タングステン膜の高速スパッタ堆積法に関する研究成果、および対向ターゲット式低ダメージスパッタ法の有機EL素子用上部電極膜の作製への応用に関する研究成果)を論文にまとめて発表する作業が遅れてしまっているので、それらの成果を論文としてまとめて発表する。次年度使用額は、主にこれらの論文投稿費用として使用する予定である。
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