研究実績の概要 |
白色LED,有機ELなどの固体素子光源の開発,普及が急速に進み,照明光源やディスプレイに広く用いられるようになった中,新たな測色の問題が生じている。現在,測色には1931年に制定されたCIE表色系が用いられているが,測色値が等しいが分光放射分布の異なる光源の色の見えが異なることが頻繁に指摘されている。これは,観測者が異なると同じ光源でも色の見えが異なる観測者条件等色の問題であるが,CIE表色系の重大な問題の一つである。CIEでは2006年に新たに錐体の分光感度(錐体基本関数)を発表し,さらに2015年に錐体基本関数に基づくXYZ表色系を発表した。本研究では,(1)新しいCIE表色系が従来のCIE1931XYZの問題を解消できるか?(2)CIE2006の錐体基本関数を基にした色の見えの個人差の解析を実施した。 (1)では,分光放射分布の異なる光源を狭波長帯域の赤,緑,青のLEDの混色による等色実験を行った。その結果,CIE2015XYZ表色系はCIE1931XYZに比べて,わずかな改善が見られたが,条件等色の問題を解決するまでには至らなかった。その原因として,視覚作用を起こさなといわれているipRGC(ip神経節細胞)に含まれるメラノプシンの色の見えへの介入の可能性が考えられ,錐体に加えてipRGCさらに桿体の介入の可能性を解析した。その結果,ipRGCの直接的な介入は不確定的で,S錐体との相互作用が示唆された。 (2)では,CIE2006LMS(錐体基本関数)を基にした異常3色者の色の見えのシミュレーションモデルを開発し,異常3色者の等色関数による等色実験の解析を行った。その結果,分光放射分布が異なるディスプレイで色覚正常者では同じ色に見えるものが,異常3色者で大きく異なる現象を説明することができた。
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