研究課題/領域番号 |
15K04692
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岡 寿樹 新潟大学, 研究推進機構, 准教授 (00508806)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子もつれ光 / 超短パルス / 局在表面プラズモン / 微小共振器 / 共振器QED効果 / ナノアンテナ |
研究実績の概要 |
近年,量子もつれ光を励起光とした分子系量子制御の研究分野が開拓されつつある.量子もつれ光の分子制御への応用においては,これまで量子情報技術が要請してきた従来の通信波長域の偏光もつれではなく,分子励起に適した紫外域の周波数もつれとその超短パルス化が不可欠になる.しかし,これら全てを満たす量子もつれ光源は現在の所存在しない.本研究の目的は,微小共振器内プラズモンナノアンテナ構造を用いた量子もつれ生成法を提案し,上記全ての条件を満たした量子もつれ光生成理論を構築,そのデバイス化への指標を与えることにある. 当該年度ではまず,局在表面プラズモンとの相互作用における光子の量子ダイナミクスを解析するため,時空間2光子パルス理論を局在表面プラズモンの光学応答を取り扱える理論へと拡張した.これによりMaxwell方程式を用いた従来のプラズモン光応答解析では取り扱えない局在表面プラズモンとの相互作用による光子の量子状態変化を実時間で逐次的に追え,高い周波数もつれ度をもつ量子もつれ光を生成するナノアンテナ構造および共振器パラメータの解析が可能になる. また本理論の有用性を示す一例として,プラズモンナノアンテナ構造を分子系の2光子吸収過程に応用,量子もつれ光による増強効果と局在表面プラズモンによるアンテナ効果の相乗効果により,分子系の2光子励起効率を100000倍近く増強させることが可能であることを明らかにした.この新しい励起法では,効率の大きさがナノアンテナ構造の自然放出率によって決まるため,分子系を選ばないという利点があり,これまで2光子吸収に適さなかった分子系でも新しい分子状態の制御法や分光法の実証研究への展開が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の目標は,量子もつれ光のビームプロファイル解析のための拡張入出力理論の構築である.現在,局在表面プラズモン光学応答を取り扱えるよう,時空間2光子パルス理論の拡張に成功しており,目標に必要な理論の構築はほぼ完成している.今後は光子分布の自由度も加味した解析へと拡張し,入出力関係式を導出するだけである. さらにこれらの計画と並行して,量子もつれ光によって誘起される分子系2光子励起過程の解析も行い,光応答場としてのナノアンテナ増強効果の有用性も明らかにしており,本モデルの新しい応用研究の可能性も拓けた.以上のように,おおむね当初の計画通りに研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では当初の研究計画に従い,弱結合領域における量子もつれ光生成における量子もつれ度と空間的量子相関の解析を行う.まず局在プラズモンの特性が十分に研究されている比較的単純な金属ナノ構造体を解析対象として,局在表面プラズモンと光子間のインタープレイを解析,局在表面プラズモンによって量子もつれ光がどのように生成されるかそのダイナミクスを詳細に解析する.その後,周波数もつれと空間的相関を,量子もつれ測度を用いて評価,高い周波数もつれ度,均一性と対称性の高い量子相関を実現するデバイスパラメータを明らかにする. またこれらの研究と並行して,分子系2光子励起効率の更なる増強の実現を目指し,金属ナノアンテナ構造のデザイン開発も行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では,ナノアンテナ構造の実効分極率の計算と共振器におけるmode体積の数値計算を研究補助者に行ってもらう予定でその人件費を計上していたが,並行して行っていた分子系2光子吸収過程の解析が予想以上の成果を挙げたため,上記の研究計画を次年度へ変更した.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画を次年度へ変更し,従来どおり研究補助者にナノアンテナ構造の実効分極率の計算と共振器におけるmode体積の計算を行ってもらい,その人件費として使用する.
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