近年、量子もつれ光を励起光とした分子系量子制御の研究が開拓されつつある。量子もつれ光の分子系量子制御への応用においては、これまで量子通信情報技術が要請してきた従来の通信波長帯域の偏光もつれではなく、分子励起に適した紫外域の周波数もつれとその超短パルス化が不可欠になる。しかし、これらを全て満たす量子もつれ光源は現在の所存在しない。本研究の目的は、微小共振器内プラズモンナノアンテナ構造を用いた新しい量子もつれ光の生成方法を提案し、上記全ての条件を満たした量子もつれ光生成理論を構築、そのデバイス化の指標を与えることにある。 最終年度では、前年度で構築した金属ナノアンテナ構造と微小共振器との結合系を簡略化した、単一金属ナノ構造と微小共振器結合系による更に簡便な周波数もつれ光生成理論を構築した。前年度の方法では、金属ナノアンテナを構成する二つの金属ナノ微粒子間距離の正確な制御が必要になるが、この新しい方法では、単一金属ナノ構造で生成できるため、上記の制御が必要なくなりデバイス実装が極めて容易になる。更にこの新しい方法では、弱結合領域によって量子もつれ度の高い広帯域周波数もつれ光を生成できるため、当初の計画にあった金属ナノアンテナ構造と微小共振器との強結合状態を実現する必要がなくなった。強結合領域は共振器QEDパラメータの厳密な制御が必要になるため、これもデバイス化の実装をより簡便化できる利点がある。 また前年度の研究推進方策にも示した広帯域周波数量子もつれ光による分子系2光子励起の解析を行った。簡単な2原子分子系を対象として、周波数量子もつれ光を本研究で得られるように広帯域化(約100THz)すれば、2光子励起効率をレーザー光と比較して1000倍近く増強できることを示した。
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