本研究の目的は、Ybファイバーレーザーを励起源とした高出力、広帯域中赤外光源の開発と中赤外光スペクトルをリアルタイムで計測できるアップコンバージョン分光システムの開発を進め、蛋白質の構造解析を目指した分光研究へ展開することである。 今年度は①中赤外光源の高度化および②中赤外分光試験用ビームラインの構築そして③中赤外光によるAβの超高速分光試験の準備を行った。①に関しては非線形光学結晶にAgGaS_2を用いた波長1040nmのレーザーを励起光そして波長1250nmのレーザーを信号光とした光パラメトリック増幅による波長6000nmのアイドラー光生成を行った。得られたアイドラー光の出力エネルギーが低かったため、非線形光学結晶のAgGaS_2を温度制御型の反転分極結晶に置き換えて高出力化を行い、最適化の一部は現在も進行中である。また時間伸張フーリエ分光を用いたシングルショットスペクトルの計測を通して波長1250nmの光の中心波長スペクトルのショットごとの変動を観測した。これは出力安定性に大きく影響を及ぼすため改善する必要があった。そこでこれを改善するためにパルス圧縮器以外を全偏波保持型ファイバーによるシステムに変更した。これにより出力安定性の向上に成功した。このときモード同期動作においてスペクトル形状が突然変化したのちに数100ns後に元の形状に戻るSoliton Explosionを観測したため、この物理機構に関しての理解も進めた。②と③に関しては、空間系で試料計測可能な分光光学系のビームラインの構築を終了した。またZBLANフォトニック結晶ファイバーによるスペクトル広帯域化のビームラインの構築にも着手した。
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