研究課題/領域番号 |
15K04704
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
井上 純一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, MANAナノセオリー分野, 主任研究員 (90323427)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 時間反転対称性のやぶれ |
研究実績の概要 |
光照射下にある電子系からの応答を記述する方法のひとつに,光と電子の相互作用効果を電子系の物質パラメータにくりこんだ有効ハミルトニアンを出発点にとるアプローチがある.この際,有効ハミルトニアンの構造が重要であるが,もともとのハミルトニアンになかった項が誘起されることで,人工ゲージ場生成など創発現象の記述が可能になる.従来,誘起項の現れ方と,対象とする電子系の空間対称性との関係は明らかではなかった.本年度は,最低次数の効果として光誘起項が現れるための格子の条件が,単位胞に複数サイト含むことと,サイト反転対称性を破っている必要があることを明らかにした.これにより,例えば円偏光照射で,電子系の時間反転対称性が破れる条件が明らかになった. 一方,光照射で時間反転対称性が破れた場合,もともとの電子系が持っていた,時間反転対称性に起因するエネルギー縮退がとけるとこれまで一般に考えられてきた.しかしながら,電子系の空間対称性によっては,時間反転対称性が守っていた縮退であっても,時間反転対称性を破っただけでは縮退が解けない場合があることを新たな知見として得た.つまり,円偏光照射によって,もともとの電子系が持っていた,空間対称操作と,時間反転対称操作に対して不変ではなくなった場合であっても,両者を組合わせた複合対称性を持つ場合には,これが守る縮退が存在する.具体例として,アルキメデス格子の1つであるsnub square latticeのタイトバインディング模型をとり,ブリルアンゾーンの縁に出来る線縮退が,時間空間複合対称性によって守られていることを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来,物性分野では,時間反転対称性と空間対称性を切り離して考えてきたが,両者が複合して発現する最も簡単な例を報告したことには意義があると考える.一般的な証明に加え,それが具体的に発現する系で期待できる現象を議論したことで,実験研究者の興味も引くと考えられる.なお,本年度得た成果は,1件の口頭発表と,一報の論文として報告した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた知見を更に拡充する.今回見いだした,時間空間複合対称性が発現する系として,他の格子構造での可能性を模索する.さらに,有効ハミルトニアン中に発現した光誘起項によってもたらされる新規物性,とくにトポロジーに関連する,電子輸送や,磁気光学効果など,実測可能な線形・非線形現象を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年7月にフランスで開催された国際会議DPC16に参加を予定していたが,渡航直前に発生したニーステロ事件によって,渡航自粛を余儀なくされたため,特に国際会議旅費において大きな残額を発生することとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
夏期にドイツで行われる国際会議に参加するほか,昨年度得られた成果を発表する機会を国内外に求める予定であり,国内外旅費での使用を計画している.
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