我々は近年、有機色素チアシアニンを自己組織化させて合成したナノファイバーが光励起で生じた励起子ポラリトンを室温で安定に伝搬する現象を発見した。本研究の目的は、ポラリトンの分散曲線を冷却で変調することにより、伝搬光波長の1/10以下の幅(約50nm)の極細ナノファイバーを用いてミリメートルに亘るポラリトン伝搬を可能にすることである。また、ポラリトンをナノメートルの曲率で曲げたファイバー中を伝搬させ、ナノスケールでの光操作を実現する。 昨年度までの研究で、ナノファイバーを液体窒素温度(約80K)まで冷却すると、幅100nmを切るナノファイバーでも高効率なポラリトン伝搬が生じることを明らかにした。さらには、基板上に分散した100nmを切るナノファイバーをマイクロマニピュレーターで操作して、極微小のリング共振器やマッハ・ツェンダー干渉計の製作を試みた。当初は装置の微小な振動が障害となり、素子サイズの目標を達成することができなかった。最終年度には、装置の除振を徹底して行うことで、直径1ミクロンを切るリング共振器を製作することを可能にした。現在はファイバーの結合部分の構造を最適化することにより、高いQ値が得られるリング共振器の製作を試みている。 また、ナノファイバーの現実的なデバイス応用の可能性を探るため、ラマン散乱を利用してナノファイバーに近赤外光(通信帯波長)をカップリングし、その伝搬特性を明らかにする実験を室温で行った。その結果、波長1ミクロン領域の光に対しても、ナノファイバーが高い伝搬効率を示すことを明らかにした。 また当初計画になかったが、27年度に発見した、ナノファイバーが示す低温領域での動的挙動について研究を進めた。最終年度には、高速度カメラを用いて動的挙動を撮影することでナノファイバーに特有な力学特性について、極めて興味深い知見が得られた。
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