研究課題
本研究の最終目的は、自由電子レーザー等のコヒーレントX線を利用した量子光学手法開発のための試料づくりである。可視光における量子光学では気体状態の原子(例えばルビジウム、セシウム等)がよく用いられるが、より短い波長が対象になるとa)窓がつかえないとb)適切な励起状態がない、という二つの問題を克服する必要がある。多価のイオンの利用によって、短波長でも適切な順位系が用意できるので、本研究では密度の高い、多価イオンのサンプルの生成法の開発を目指しています。本年度は以下の進歩を報告する。1)小型、永久磁石を利用した電子ビームイオントラップの開発を進めた。基本的な機能についてはドイツのグループと協同で開発し、国際会議にて発表を行っている。キセノン36+のイオン生成は確認できている。2)自由電子レーザーの利用実験を実施した。本研究のために開発した高密度ガスセルを利用し、中性のターゲット原子から可視光の超蛍光の観測に成功した。又、指向性の高いEUV発光の観測にも成功した。ストリークカメラを利用し、EUV発光と励起光の時間構造の違いも確認できた。3) 超蛍光を観測した実験結果の理解のため、数値計算を進めた。成果は論文で発表した。4)EUV発光を理解するためには(3)の数値計算に伝搬を加え、大型並列計算機をつかった計算を試みた。5)イオンを利用して、EUV超蛍光を実現するために自由電子レーザーのマシンタイムを確保した(2017年6月実施予定)。(2)、(3)、(4)の成果については国内会議で発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
手法開発および数値計算の面では当初の計画以上に進展しているが、自由電子レーザーのマシンタイムが確保できたのは2016年11月となったので、実験は当初の計画よりやや遅れている。
今後の研究の進展方策は概ねに以下のように予定しています。2017年4月~10月。i)SACLAのBL1を利用したマシンタイムの実施。ヘリウムイオンからのEUV超蛍光の観測を目指す(波長20 nm から 30 nm)。最初の実験は中性ヘリウムをターゲットにするが、自由電子レーザの波長をイオン化閾値付近に併せることによって、高密度のヘリウムイオンのターゲットがパルス内に生成できる。同じパルス内に2光子吸収でヘリウムイオンの3s/3d, 又は4s/4d状態を励起させると、いわゆる「ヨークド」超蛍光の脱励起が期待できる。ii)より高いチャージステートのイオンが利用できるガスセル装置の開発2017年10月以後より高いチャージステートのイオン(より短い波長)を目的としたSACLAのBL1を利用した実験。
予算の執行がやや当初の計画より遅れて理由はi)自由電子レーザーのマシンタイムを確保するのに予想より時間がかかったことと、ii)国外の動向に併せて、方向を少し変更する必要が生じたため、である。
2017年度中には以下の使用を予定している。イオンを利用した実験のための装置開発・物品購入(90万円)、多価イオン生成の為の装置開発(80万円)、数値計算のためのパソコンの購入(20万円)、国際会議にて成果発表(35万円)、国内会議の成果発表(10万円)。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Phys. Rev. A
巻: 94 ページ: 63416
10.1103/PhysRevA.94.063416