本年度は、スピン制御VCSELを用いた新しい高速直接変調法の着想を得たため、この原理実証実験に取り組んだ。具体的には、VCSELに上向きスピンと下向きスピンの電子を差動的に信号の1/0に対応させて注入(スピン偏極変調)することで、左右円偏光の変調を行う。必要に応じて偏光素子を用いて強度変調や位相変調に変換することができる。従来の電流のON/OFFによる直接変調では、緩和振動の影響で変調速度に制限があったが、新しいスピン偏極変調では注入するキャリアの総量が変化しないため、緩和振動の影響を受けない。加えて、左右円偏光での変調においては、キャリア周波数が定常時の発振直線偏光、変調サイドバンドがそれと直交する直線偏光となるため、変調サイドバンドがVCSELの複屈折により分離した直交偏光モードと結合でき、この周波数分離を大きくすることによって高い周波数の変調感度を増大させることができる。 原理実証実験では、位相変調器を用いて励起光を左右円偏光間で差動変調し、これをInGaAs/InAlAs系量子井戸VCSELに注入することでスピン偏極変調した。これによってVCSELの発振偏光は左右円偏光間で差動変調されるが、これをバランス検出し変調感度特性を評価した。サンプルはレーザ加工による応力付与によって直交偏光モード間の周波数分離を制御し、複数の周波数分離を持つサンプルを用意した。測定結果では、周波数分離に相当する周波数で明確な変調感度ピークが見られ、23GHzの3dB帯域を達成した。この成果は、国内学会にて口頭発表済であり、今後国際会議および国際論文誌にて発表予定である。 当初予定していたVCSELのInGaAs/InAlAs量子井戸の基礎特性評価に向けて、FIBによってVCSEL表面の金電極、上部DBRの除去加工を実施した。今後電子スピン緩和時間などの評価を予定している。
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