研究課題/領域番号 |
15K04711
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
畠山 力三 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (00108474)
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研究分担者 |
京相 雅樹 東京都市大学, 工学部, 准教授 (20277825)
平田 孝道 東京都市大学, 工学部, 教授 (80260420)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズマ応用 / 生体内発電 / ナノバイオ・医療 / ナノ材料 / ナノカーボン |
研究実績の概要 |
(1) 生体内発電素子対応のナノカーボンの合成を開始し, 低電子温度の拡散プラズマCVDにより, カイラリティ分布が極端に狭い半導体優先の単層カーボンナノチューブ(SWNT)を成長させること, 及びH2/CH4混合ガス比の調整により, 形状と位置の制御を目指した高品質グラフェンの合成に成功した. (2) イオン性プラズマ中基板バイアス法より創製されたC60内包(@)SWNTの電気特性をFET配位で測定した結果, 強固なp型半導体であることが判明した. そこで, このp型"C60@SWNT"薄膜とn型半導体Siによるpn接合太陽電池を作成し, 可視から赤外光領域の光源を用いて発電効率(η)の入射光波長(λin)依存性を詳細に調べた. その結果, λin > 1000 nmの生体透過性の赤外光領域でも高いηが維持され, バンドギャップが狭いSWNTが生体内発電に有効であることが実証された. (3) 一方, 空のSWNT内部に半分だけ電子ドナーのアルカリ金属(A)を内包した"A部分@SWNT"を創製した. このpn接合内蔵SWNT1本に対して赤外光入射実験(λin=1650 nm)を行った結果, η=11.4 % を達成した. この新概念太陽電池の出力電力の増大を目指してCs部分@SWNT薄膜を形成し光入射を行った結果, pn接合内蔵SWNT薄膜において初めて明確な太陽光発電特性の観測に成功した. (4) 並行して, 生体の光透過特性と生体内における太陽電池の発電性能評価に向けた準備研究を行った. 市販のSi太陽電池について蛍光灯と分光光源を用いて,単体の発電特性を計測し,次にラット皮下に埋め込んだ状態での特性測定を行った. その結果, 皮下においてはλin =600nm以下及び1000nm以上で発電量が低下する傾向が確認された. 短波長側の低下は生体の吸光特性,長波長側の低下は使用したSi太陽電池の分光発電特性と一致した結果であり,生体埋め込みに適した太陽電池は赤より長い波長における特性が重要であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 本研究では生体内発電素子の発電層に, 生体透過波長領域での光電変換に対応するバンドギャップを有するSWNTを用いることを提案している.しかし, 通常の方法では1/3が金属性で2/3が半導体特性のSWNTが合成される. ここで基本的には, 半導体を用いるpn接合による光電変換を考えているので, 半導体優先のSWNTを合成できる拡散プラズマCVDを開発した意義は大きい. また, 同CVD方式により層数を変えることができるグラフェン合成も可能にしたことは, SWNTとグラフェンのハイブリッド活用が発電効率の向上に有効であると期待されるので重要な成果である. (2) イオン性プラズマ中の基板バイアス法により創製された強固なp型半導体のC60@SWNTは, 赤外光領域の光電変換に大きく寄与することが初めて見出された. また, 同基板バイアス法で創製されたCs部分@SWNT1本がpn接合を内蔵し, 赤外光入射に対して高い発電効率を示し, かつその薄膜素子において太陽電池特性が観測された. この二つの成果は今後の研究展開における基盤となる有用な知見を提示している. (3) 以上は, ナノカーボンを基材とする光電変換素子・太陽電池の開発に関する”生体外”におけるプラズマプロセシングと光入射に対する発電特性の進捗状況であったが, 「生体内」における準備研究でもこれと呼応して, 今後の研究展開に必須・重要で確固たる進捗があった. すなわち, 市販のSi太陽電池をラット皮下に埋め込んで発電特性を測定した結果, 生体埋め込みに適した光電変換素子としては赤より長い波長における赤外光領域特性が鍵を握ることが示されたことである.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 生体外での実験においては, 本研究の基盤となるp型半導体SWNT薄膜/n型半導体Siから成る太陽電池配位下の発電効率の向上に関する詳細な研究を推進する. 一つには, Si界面上の自然酸化膜形成防止とその除去のためのプロセスやドーピング手法を開発する. もう一つは, SWNT発電層のシート抵抗と電極との接触抵抗を格段に低減するために, SWNTとグラフェンのハイブリッド活用法を開発する. (2) 生体内で使用予定の当該発電素子においては,血液等の浸透防止のための保護膜で被う必要がある. この保護膜材料としてはPMMAやパラリン膜等が考えられるが, これらの光透過度の波長依存性を測定し, 赤外光領域でも光透過性を維持できるかどうかを明らかにする. その結果次第では, 必要があれば更に他の材料を広く探索する. (3) (1)で述べた基盤となる発電素子であるp型半導体SWNT薄膜/n型半導体Siにおいて, 最終的にはn型半導体Siを他の生体適合性のフレシキブル新材料に置き換えることが目標となる. そのためには, オールカーボンフレシキブル生体内発電素子の見地からは, 赤外光領域に対応してバンドギャップが1 eV以下のCs完全@SWNT等のカーボン材料が望ましい. しかし, 今後の実験結果次第では発電特性の再現性や安定性等の諸課題を克服できない場合も有り得ることを想定して, 新奇n型有機半導体や現在国内外で盛んに研究展開されている二次元原子層状物質(遷移金属カルコゲナイド, シリセン, ゲルマン, スタネン, 黒リン, .......)に加えて, 他の新ナノシート材料を広範な分野の研究実施状況を調査して探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にあたり準備研究が主であったので, 消耗品, 人件費・謝金, 及びその他に関しての使用金額が当初予定より少なく済んだことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には実験が本格的になるので, 消耗品に主に充当して, 残り若干は資料収集のための旅費に使用する予定である.
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