研究課題/領域番号 |
15K04712
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
久保田 智広 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (70322683)
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研究分担者 |
寒川 誠二 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (30323108)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プラズマ・ビーム誘起錯体反応 / 中性粒子ビーム / 遷移金属エッチング / 第一原理計算 / 密度汎関数法 / 酸性度 / 活性化エネルギー / 結合次数解析 |
研究実績の概要 |
エタノールガスおよび酸素・アルゴン中性粒子ビームによって起こるタンタルエッチングについて、そのメカニズムの解明を理論計算を中心に検討を行った。東北大学流体科学研究所のスーパーコンピュータおよび理論計算ソフトウェアGaussian09を用いて、密度汎関数法による計算を行った。その結果、吸着したエタノール中の水素がタンタル酸化物へと移動する「水素移動反応」がアルゴン中性粒子ビーム照射によって起こることが分かった。さらに、反応が起こるビームのエネルギー範囲や入射角度分布についても初期的なデータを得ることができた。また、エタノール以外の吸着分子を用いた場合の水素移動反応の起こりやすさを計算によって系統的に調べた。その結果、吸着分子がOH基を持つ場合、物質の酸性度と水素移動反応の活性化エネルギーにはきれいな相関があり、酸性度が高い方が活性化エネルギーが低くなることを見いだした。これは、「水素移動反応」は吸着分子が水素を酸化物に提供する反応であることを考えると妥当な結果であると考えられる。なお、SH基を持つ場合は酸性度の高さにもかかわらず活性化エネルギーが低く、吸着の際のTa-S結合長が長く水素が長距離を移動しなければならいためだと考えられる。 一方、「水素移動反応」に次いで起こる反応プロセスを理論計算により検討するために、密度汎関数法よりも高速な、Tight-Binding量子分子動力学法を用いた検討を始めた。今年度は計算パラメータの最適化を行い、タンタル酸化物のモデルが安定に存在できる条件を確立するとともに、エタノールが吸着することおよび「水素移動反応」後に酸化膜中のTa-O結合が弱まることを示唆する予備的な計算結果が得られた。 鉄・コバルト・銅など応用上重要な遷移金属についても同様な計算を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論計算により、タンタルエッチングのメカニズム、特に「水素移動反応」の性質についての理解が予想外に進展した。とくに、理論計算に基づいてエッチング条件の改善を提案できる可能性を示せたことは特筆すべき成果と考える。 今後、計算によって得られた結果を実験によって確かめることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
理論計算においては、「水素移動反応」が起こりやすい条件について引き続き検討するとともに、実験的に測定可能なパラメータを予測することに挑戦する。また、「水素移動反応」後に起こる反応を検討することでエッチング反応全体の解明を目指す。また、タンタル以外の遷移金属の計算を確立する。 エッチング実験では、理論計算に基づいて予測された、エタノールよりも「水素移動反応」の活性化エネルギーが低くエッチングが起こりやすいと考えられる条件を、実験的に実証する。 さらに、表面分析やビーム測定をおこない、これらのデータからエッチングのメカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理論計算によるメカニズム解明を優先して研究を進めたため、実験関連の予算執行が見込みよりも少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
理論計算により予測された吸着分子によるエッチングの起こりやすさを実証するための実験を行うための実験を追加で行うための、実験サンプル準備やエッチング装置運転のために使用する。
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