研究課題/領域番号 |
15K04719
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
寺田 康彦 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20400640)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物用MRI / 4次元マイクロスコピー / イネ / 地下茎腋芽 / 成長 |
研究実績の概要 |
MRI(核磁気共鳴イメージング)は生体試料の内部構造を3次元的に画像化できるが、これまで,植物体内の高分解能での撮像(マイクロイメージング)は,切片試料での観察のみに限られていた。そこで本研究では,生きたままの状態の植物試料に対し,時間軸も含めた4次元マイクロイメージングを可能にするMRIシステムを開発することを目的としている。観察対象として、イネの地下茎腋芽内にあるメリステム(幹細胞の一つ)を用いる。メリステムはイネの成長に重要な器官であるが、その成長機構や環境応答はよくわかっておらず、本研究ではこれらの知見を得ることも目的としている。 平成27年度は、イネの地下腋芽の切片試料をMRIで観察するために必要な、高周波コイル(信号送受信用)と勾配磁場コイル(位置情報付加用)を設計し、作製した。これらを使って、地下茎腋芽の切片試料を観察したところ、地下茎が成長する様子を撮像することができた。MR画像には、腋芽の解剖学的情報がはっきりと描写されていた。地下茎の成長過程は、光学顕微鏡によって観察したものとよく一致していた。MR撮像に用いた地下茎は、切片試料であるが、地下にある地下茎と同じように成長することがわかった。また、MRIで観察された腋芽の動態は、冬の間養分を蓄えて休眠する樹木の冬芽の様子とよく似ていた。このように、MRIの環境内でも自然状態と同じように地下茎を成長し、その様子をMRIで撮像することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観察に用いたMRI用磁石は、静磁場強度が4.7T(プロトン共鳴周波数202MHz)と9.4T(同400MHz)の縦型超伝導磁石である。本年度は主に、これらの磁石で使えるように、高周波コイルと勾配磁場コイルの改良を行った。地下茎腋芽の大きさは約3mmほどと小さいため、信号強度がかなり低くなる。そのため、高周波コイルとして高感度ソレノイドコイルを作製した。また、人口蜂コロニーアルゴリズムを用いて勾配磁場コイルの形状を最適化することで、広い勾配磁場均一性を実現した。さらに、地下茎腋芽の成長の様子をMRIで撮像し、光学顕微鏡観察による結果と同じであることを確認した。 さらに撮像用シーケンスの開発を行った。撮像時間短縮のための圧縮センシング技術や、NMRパラメタの同時取得が可能な磁気共鳴指紋法などの初期検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
28年度以降は,代謝物イメージングのためのハードウェアの改良と、シーケンスの実装を行う(筑波大)。シーケンスとしては化学シフトイメージングや緩和時間イメージングを採用する。これらのシーケンスでは、勾配磁場コイルのスイッチングに伴う渦電流によって発生する過渡的な磁場が無視できず、スペクトルにアーチファクトが入る可能性がある。これらを改善するために、さらなるハードウェアの改良を行う。まず、渦電流場の補正を行う。これらの問題を,磁気遮蔽性能に優れるアクティブシールドコイルの採用で対処する。また、静磁場均一性を向上させるための、高次の電流シムコイルを導入する。また、撮像用シーケンスの開発を行う。圧縮センシングや磁気共鳴指紋法を本格導入し、高速化と効率化を図る。 また、イネの地下茎のイメージング(筑波大)と成長機構解析(東大)を行う。この4次元マイクロイメージングによって得られる解剖学的な情報と,化学シフトや緩和時間イメージングによって得られる情報を元に,イネの成長過程に関する植物学的な知見を得る。これには,連携研究者である解析グループとの密接な議論を通じて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度に海外共同研究者(オーストラリア、Western Sydney University、William S. Price教授)との共同研究を実施するため、海外出張を予定しており、その渡航費用、滞在費用などに充てるために、本年度予算の一部を来年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年5月からおよそ2か月間、Western Sydney UniversityにVisiting Professorとして滞在し、14T(600MHz)という高磁場のNMR用磁石を使って、本研究で開発する4次元マイクロスコピーに必要なシーケンスの開発や、ハードウェア制御法の討論、ファントム画質の評価などを行う予定である。
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