本研究では,プリンティング熱電デバイスの実現を目指し,我々が開発した「Bi-Te熱電インク」の高性能化と素子作製を目指す.平成29年度は下記の二つの事項について顕著な研究成果を得た. 1. 熱電インクから作製したナノバルクの性能向上の試み いくつかのバルク熱電材料において,バルク中に析出した金属微粒子が伝導キャリアを選択的に散乱するキャリアフィルタリング効果により熱電能が増強することが報告されている.p型およびn型の熱電インクに金属テルルを過剰に混入し,攪拌・乾燥後,粉末をダイスに詰めてホットプレスすることによりナノバルクインゴットを得た.p型では組織中に金属テルル微粒子が析出した目的の構造を作ることに成功したが,n型ではテルルの析出は見られなかった.p型の熱電能を広い温度範囲で測定したが,熱電能の増強は見られず,キャリアフィルタリング効果は観測されなかった. 2. インプリンティング法を用いた微小熱電素子の印刷 高アスペクト比の印刷熱電素子を,インプリンティング法を用いて作製した.厚さ100 nmのpt電極を蒸着したシリコン基板に対して表面処理を行った後,熱電インクを滴下する.アルゴンガス中で乾燥させBi-Teの厚膜とした後,パターンを彫ったステンレス製モールドを150℃,40 MPaで厚膜に押しつけることによりパターンの転写を行った.その結果,幅100μm~30μm,長さ2.8 mmのラインパターン,一辺100μm~30μmの正方形パターンのBi-Te素子パターンを形成することに成功した.この素子パターンを550℃,5分で熱処理することにより得られた素子は,バルク試料と同等の熱電能を示し,電気抵抗率の増加は2倍以内に抑えられた.これはインクジェット印刷素子に比べて5~10倍の性能改善に対応しており,熱電インクを用いたプリンティングデバイスの実現に大きく近づいたと言える.
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