研究課題/領域番号 |
15K04722
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
細田 真妃子 東京電機大学, 理工学部, 准教授 (40366406)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 粘性 |
研究実績の概要 |
三年目になる本年は液体表面に形成される界面活性剤の単分子膜について、その吸着過程に伴う弾性率挙動を測定するための新規の手法開発を行った。溶液から表面への吸着分子数の増加に伴い、膜の状態は気膜から液膜、固体膜へと相転移する。このときこれまでのように流動場を常に印加していると、形成された固体状態膜が破壊される。固体膜の観察にあたってはこの破壊を防ぎながら膜の粘性のモニタリングを行いつつ、かつ膜の凝集密度を増加させる必要がある。そこで微小な周期トルクを印加することにより表面吸着膜の粘性を測定する手法を開発し、代表的な界面活性剤の吸着膜の形成過程をモニタリングした。その結果、初期過程においては微小な凝集状態の分散系が出現することによる表面粘性の増加が観察され、その後の時間経過に伴ってパーコレーションの構築による弾性率の出現過程をとらえることが可能となった。これは例えば吸着分子膜以外の表面構造、例えば液体表面に形成される2次元的なフラクタル相の流動場下での形成過程と粘弾性の観察にも応用できる。水酸化カルシウム水溶液を大気にさらしておくと溶液の表面が樹状の形状を持つコロイド凝集体で覆われる。これは溶液中の水酸化カルシウムと空気中の二酸化炭素とが反応して不溶性の炭酸カルシウムを生じ、これが表面上で結晶成長することで起こる現象である。この反応によって生じる炭酸カルシウム結晶のコロイド粒子は溶液表面上を2次元的にブラウン運動しながら衝突し結合することで、表面にフラクタル形状の凝集相が形成される。 この技術はまた、通常の3次元の液体のゲル化などの精密モニタリングへの応用が可能である。血液凝固のモデルとして極めて微小な弾性率を示すたんぱく質水溶液のゲル化過程の観察を行い、ゲル化によりネットワーク構造を壊すことなく、無限大のパーコレーションが構築される様子を極めて高精度に決定することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでは一方向への等速回転のみであったアルミ円板プローブの回転を、トルク印加を行うための磁場の回転方向を周期的に変調することにより、プローブの振動回転を可能にした。これによりレオメーターと同様の原理により粘性および弾性を同時に決定する手法を構築した。これは2次元吸着膜のみならず、広く一般に粘弾性物質のレオロジー特性を決定する上で重要な技術開発であり、我々の手法の持つ非接触という性質を活かして、特にバイオ系における物質状態の変化を追跡する重要な手法となる。これは当初の研究計画を超えた成果である。以上の通り本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2次元吸着膜の形成過程における表面弾性率測定が可能となり、これについても当初の計画通りの精度が実現できることが明らかとなったので、今後は実施計画に基づいてさらに各種表面分子層が有する表面粘弾性を計測する。様々な種類の界面活性剤水溶液について、磁場の一定速度回転のモードによりプローブの定常回転測定を行って表面粘性の表面圧・温度・分子鎖長への依存性を検証する。さらにこれらの諸条件が表面粘性に及ぼす影響を系統的に調べ、装置の性能と結果の妥当性を評価する。 その後、磁場を振動回転モードに切り替え、吸着の後期課程における表面弾性率の出現プロセスのモニタリングを行い、振動トルクに応答する回転子の振動の振幅と位相遅れから複素表面粘弾性、すなわち弾性と粘性の二つの物理量を分離して検出する。この観察を通して分子形状に加えて温度やpHなどの外的環境が分子膜の固さに与える影響などについて詳細に調べる。試料としてはまず表面吸着量が滴下量によって一意に決定できる不溶性単分子膜を用い、これについて吸着分子密度と表面粘弾性の関係を定量的に評価できることを確認する。さらに対象を可溶性の単分子膜に拡張し、その吸着量と粘弾性の関係を測定する。この際の表面への分子吸着量の測定には、過去に申請者が開発した偏光解析を用いた表面分子密度測定システムを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
表面単分子膜による2次元粘性の測定において、炭酸水素ナトリウムを試料に用いると、フラクタル層を形成することが確認された。これを精密に計測すれば、これまで明らかにされてこなかった液体表面上に形成される2次元フラクタル層の形成過程を検出できる可能性が見いだされたため、これを検証する必要が生じた。延長期間については2次元フラクタル層の原理実証実験に3カ月、その結果の解析と理論的検証に3カ月が必要となる。
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